メゾンの歴史を守りたい ヴィタリー・テタンジェ社長と家族の奮闘

テタンジェファミリー

パリの国際機関で働いていた当時、世界中から集まる政府高官のレセプションや、事務局長主催の新年会の場に華を添えていたのが、老舗のメゾン「テタンジェ」のシャンパーニュだった。

こうした華麗なイメージのテタンジェは、シャンパーニュ界においてトップ3に入る規模の大手であるが、その長い歴史には、山あり谷ありの歩みがある。

長い歴史を持つメゾンの歩み


メゾンの歴史は、1734年まで遡る。最古のシャンパーニュ・メゾンの設立は1729年であり、テタンジェもそれと等しい歴史を持つメゾンの一つだ。

1932年、ピエール・テタンジェがメゾンを取得し、テタンジェ家による家族経営となった。それ以降、順調に成長を続け、シャンパーニュ生産のみならず、ラグジュアリーホテルのクリヨンや、クリスタルメーカーのバカラを傘下にもつなど、事業は多角化し、拡大した。


Brut Prestige

しかし、2004年、思わぬ事態が発生する。家族間の意見の不一致により、株主であるピエール・テタンジェの子孫らが、シャンパーニュを含む事業全体を、米系ホテルを傘下に持つスターウッド・キャピタルに売却する決定を下したのだ。スターウッドの買収目的がホテル事業にあり、買収後、シャンパーニュ造りに力を入れないことは予期できた。

そこで、メゾンの大事な歴史を守るべく立ち上がったのが、ピエールの孫であるピエール・エマニュエル・テタンジェだった。

テタンジェのブランドを維持すべく、家族での買い戻しをひそかに計画した。最上の畑を含む数々の資産やブランド価値の高い老舗メゾン売却とあり、多数の入札者が現れたが、ピエール・エマニュエルは、銀行などの助けを借り、落札に成功。2006年、メゾンは家族の手に戻った。



その後、ピエール・エマニュエルの手腕により、メゾンのブランド力は強化された。そして2020年、メゾンは、娘のヴィタリーに託された。

シャンパーニュの長い歴史と発展は、ヴーヴ・クリコのマダム・クリコやルイ・ロデレールのカミーユ・オルリー・ロデレールなど、女性の活躍なしには語れない。こうして、今の時代に、大手メゾンの新社長に女性が就任したことは、シャンパーニュに新しい風を吹き込むものと歓迎されている。
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文=島悠里、写真=ワイナリー提供、島悠里

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