「海外はこうだから」病の処方箋


第二次大戦が終わると、奔流のように米国制度が押し寄せた。まずは日本国憲法だ。わが恩師、故ヘンダーソン教授の言葉を思い出す。「ロースクール出たての私は、品川駅近くの高輪に豪壮な構えの邸宅をあてがわれてね。毎日、日本のカンリョウ相手に米国修正憲法を教えていたよ。自分の意見が憲法になるから興奮した」。

米国直輸入の一つが資本市場制度だ。金融商品取引法の母体であるわが証券取引法は、米国33年証券法と34年証券取引法の直訳をごった煮にしたものと思えばよい。証券取引所も市場取引制度も、ほとんどが翻訳の世界である。だから、市場用語の多くがカタカナだ。

足元でも、翻訳文化全盛である。カーボンフリー、SDGs等々も、海外発である。

優れた海外の知恵や仕組みを導入することは大いに結構。グローバル時代には、開放的で拡張的な発想が大切だ。しかし、それがいつまでも追従ばかりというのでは寂しい。直訳的輸入には陥穽もありうるし、日本の独自性や特性を軽視しかねない。 

例えば、コーポレート・ガバナンス(CG)である。社外取締役を増やせ、女性、若者や外国人をもっと登用しろ、という。もっともだ。外部監視と多様性が重要で、外国人投資家が多い現在、日本の現状のCGではダメだ、CG改革は思い切った事業戦略の展開にも資する、という。これらは重要な視点であり、しっかり受け止めなければならない。だが、日本的経営の功罪との比較など、まだまだ熟慮すべき論点も多い。何より、CG改革の効果についての実証研究がほとんどない。実証なき「海外がこうだから」という翻訳文化の思い込みは性急でもある。

日本とは逆に独自路線を喧伝しているのが中国だ。その強引なやり方に与するものでは決してない。けれども、「日本はこうだよ」というスタンスはもっとあってよい。

日本の成長時代には、和魂洋才が喧伝された。国や企業の仕組みについて、洋魂洋才ばかりがもてはやされる風潮には、日本の自信喪失の深刻度を見る思いがする。令和もまだ明治なのだろうか。


川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。日本証券業協会特別顧問、南開大学客員教授、嵯峨美術大学客員教授、海外需要開拓支援機構の社外取締役などを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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