──「ルール?展」を開催することで、社会にどのようなメッセージを発信したいですか。
水野:目まぐるしく変化する社会情勢のなかで、ビジネスでも、日常の生活でも、既存のルールを疑ったり、距離をとったり、新しく作り直したり、というようにルールに対するものさしや、ルールメイキング思考が求められているように思います。この展示を通して、そうした思考に触れることができるはずです。
ルールが決まっているからこそ、そこから逸脱できるし、決まったものがあることによって新しいものの差分を作っていくことができるような気がします。まず何か課題にアプローチする時に、これまでそれが扱われてきたフレームやルールを見出して、そこから一個外せば新しいものができる。ある種ルールは、新しいものを作るひとつの手段でもあると思うのです。
丹羽良徳「自分の所有物を街で購入する」(撮影:吉村昌也)
菅:そう思います。人間って決まったことに従いやすい性質がある。だから僕の場合、その性質を利用して、あえて自分自身に制約を敢えて課すことで、考えることを意図的にずらして、普段考えないようなことを考えるようにしていくみたいなことを普段からやっています。制約を自分でデザインすることによって、自分の行動をアップデートすることができる。
どんな小さなことでも、自分の意志で決めてやるのが大事だと思っています。例えば長い映像作品を立ったまま見ていると、すごく疲れるじゃないですか。疲れたらその場に座ってしまえばいいと思うんですよね、自分で決めて。でもなかなか実行に移せない自分がいたりする。
「ルール?展」ではそういった状況になった時に「座っても良いのでは?」と考えて行動できる自分を発見するきっかけになるような仕掛けも入れています。
自分で決断して実行することを積み重ね、決断することに慣れることがこれから生きていく上で大事な気がするんですよね。小さなことを積み重ねていくと、自分の生き方や社会に対してのアプローチの仕方が変わってくるんじゃないかなと、ちょっと期待しています。小さなさざ波でも起こしていかないと世の中は良くならないので、ほんの些細であってもそのきっかけになれれば嬉しいなと思います。
田中:ひとつのやり方がある時に、そうではないやり方があることを想像してほしいと思っています。自分はこういう風に生きているけど、そうじゃないこともあり得た、ということをどれくらい想像できるかがすごく大事だなと。
1人の能力を高めていくことももちろん大事ですが、社会全体が豊かになる方法を考えていかないと、もうどうにもならなくなってきている。どのくらい他者の範囲を広げて考えられるか、という意味でいろいろなルールやルールへの思考を知ることが、この展示のひとつの役割としてあるのかなと。
体制や仕組みを含め、こんなにルールが信頼を失っている時代はないのではないかと思います。権威的な存在がやることは全て信頼が担保されている、という時代はもう終わっていて、信頼を得るには互いの地道な努力が必要だということをみんな認識しているはず。なのに同意しかねる一方的な要請が続くことで、体制やルールを信じられなくなっている。
そうした社会のリアリティーが強すぎるなかで、どれくらい「ルール?展」を楽しんでもらえるかはちょっと心配でもあります。ただ、この状況を直接的に変えようとするとかではなく、一人ひとりが「そもそもルールってなんだっけ」という視点から、自分の周りにあるルールに意識を向けることを楽しんでもらえたらいいなと思います。