水野(続き):展示を通して、ルールは面白く扱ってもいいし、ただ従うだけでなく、より良くなるように作り変えてもいいものなんだと、少しでも思ってくれる人が増えたらいいなと思います。ルールって特別なものではなく、仕組みのひとつです。ある種のメタ的な思考をもって、仕組み自体を面白く捉えて見られる人が増えてほしいなと。
法律家・弁護士 水野祐
──目には見えない「ルール」というものを展示にするのは難しかったのではないですか。
水野:とてもチャレンジングでした。
これまではルールというと、どうしても最終的にはリテラシーや教育の話になり、説教臭くなってしまっていた。でも「みんなルールについてリテラシーや意識を高くもって行動しよう」という表現ではこぼれ落ちてしまうものがたくさんあります。
だから今回の展覧会では、来場者のみなさんが展示に自ら巻き込まれてアクションを起こすような体験を通して、ルールを一緒に考えたり、作っていく楽しさを感じられるようなものとして企画しました。
田中:ディレクターチームの3人とも、合理性に美しさを感じて、そこに重きを置くタイプなので、根拠なく「ただ美しい」といった理由で展示したものはひとつもないです。
菅:合理性に重きを置くというのは、なんとなくそうなっているものに対して「なんで?」と問うのが当たり前になっているという感じです。
人間が決めたルールには全て目的や意図があって、そうしたものをちゃんと読み取らないといけないなと考えています。長く使われているルールって、なんでそれが作られたのかが消えちゃうんですよ。とりあえず昔からあるからという理由だけで生き残っていたり、使われていることがすごく多いので、そこに対して「なんで?」と思えることが大事なんじゃないかなと改めて思いましたね。
再考して、変化を加えても、上手くいかないこともあると思います。でも「変えてもいいんだ」という状況のほうが前に進みやすい気がするんですよね。だから変えることに慣れる、変わることが当たり前になっていく、というモードに多くの人がなることが大事なんだろうなと感じます。
キュレーター・プロデューサー 田中みゆき
──田中さんは作家としてご自身も作品を出展なさっています。作品について解説して頂けますか。
田中:2013年にリミニ・プロトコルというカンパニーがつくった舞台「100%トーキョー」を、来場者自らが主役となって体験できるようにつくり変えて展示します。その作品は、年齢や性別などの東京の人口比率をそのまま表した100人を集めて、ステージ上で生で意識調査をするものです。「子どもがいる・いない」などアンケートのような質問もあるのですが、例えば「今週泣いた」といった数字以上のものを想像させる質問もあり、小さな選択や思いを持った他者が集まって社会を構成していることが見えてきます。
ダニエル・ヴェッツェル(リミニ・プロトコル) 田中みゆき 小林恵吾(NoRA)x 植村 遥 萩原俊矢 x N sketch Inc.「あなたでなければ、誰が?」(撮影:吉村昌也)
そこに今回は来場者自身が主役となって参加してもらいます。来場者は鑑賞者となることもできますが、出演者となる場合、自ら何かを選択せざるを得ない側に立たされるんです。さらに選択を行うと、その場にいる人たち、あるいはこれまでの来場者や他の調査結果と比べて、その選択が多数派かどうかが示されます。
この作品を展示したいと思った意図は、「あなたでなければ、誰が?」というタイトルが表す通り、たとえ当事者意識をもっていなかったとしても、自分たちが日々何かを決める一役を担っていることを意識してもらう、最初の体験になればいいなと思ったからです。