オランダ最大手銀行に聞く、サーキュラーエコノミーが金融に与えるリスクとチャンス

INGサステナブルファイナンス・サーキュラーエコノミーリード・Joost van Dun氏


「サーキュラーエコノミー型ビジネスモデルの代表例がPaaSで、多くの企業は製品を売るのではなくサービスとして提供するモデルへと転換を進めています。その背景には、資産やデバイスにお金を払うのではなく、それらへのアクセスに、つまり使った分だけお金を払いたいと考える消費者が増えているという変化があります。

一方で、これは製造側にも変化を起こします。PaaSとして提供する場合、製造側にはより耐久性の高い製品を作る動機が生まれます。できるだけループ(循環)のなかにとどまる耐久性の長い商品を作ったほうが、より多くの収益を生み出すことができるからです。

このように顧客のビジネスモデルが変わることは、我々銀行にとっても大きな意味を持ちます。最も大きな変化は、製造側が製品の所有者になるという点です。

また、収益の流れも変わります。これまでは製品が売れたときに売上が発生していましたが、これからはユーザーの利用量に応じて課金し、毎月いくらかのお金を受け取るという形となります。製品の所有者は消費者ではなく製造側になるので、彼らのバランスシートはより大きくなり、資本需要と財務比率に影響をおよぼします。

オランダ ING

この変化により、我々銀行は融資の方法を再考しなければなりません。銀行は資産への融資からサービスへの融資へと焦点をシフトさせる必要があります。サーキュラーエコノミーにおいてはサービスの提供者と利用者との間の契約がとても重要となり、それは一種の新しい『担保』のようなものとなるのです。

例えば洗濯機のサブスクリプションモデルを考えてみましょう。我々の融資先がユーザーに対して月額制の洗濯機利用サービスを提供しているとします。もし融資先が倒産した場合、私たちがユーザーから洗濯機を再回収することは経済的に考えて現実的ではありません。我々にとって大事なことはユーザーに継続して洗濯機を利用してもらうことであり、仮に問題が発生した場合、サービスを継続できる別の会社へと移行できるかどうかがとても重要となります」

「お金を貸す」という銀行のビジネスモデルの根幹にある「担保」という仕組み。この前提は、サーキュラーエコノミーが普及して人々がモノを「所有」しない時代となれば大きく変わらざるを得ないということだ。Joost氏は、これを「We Finance Asset(資産に融資する)」から、「We Finance Service(サービスに融資する)」への変化だと説明する。

PaaSモデルが銀行に突きつけるジレンマ


いくら冷蔵庫を差し押さえても、ユーザーとの契約がなければ意味はない。「資産」ではなく「契約」を担保として融資をするとなると、企業評価の際に大事になってくるのは過去の財務状況ではなく、その契約が今後どの程度の収益を生み出すかという将来のキャッシュフロー予測だ。しかし、Joost氏はこの変化は銀行にとって難しいジレンマをもたらすと話す。

「これまでの銀行は、融資の際に過去の財務状況を見るのが普通でしたが、これからは将来のキャッシュフローの評価に焦点を当てる必要があります。その際に大事になってくるのがやはり『契約』なのですが、ここで厄介な問題が生じます。

我々銀行にとっては、数年にわたるより長期の契約があったほうが売上が見込めるので融資がしやすいのですが、反対にユーザーが契約に求めるのは『柔軟性』であり、彼らは3年、4年といった長期の契約を望みません。ここにトレードオフがあり、我々にはバランスが求められます。契約が柔軟であればあるほど、融資はしづらくなるのです」
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文=IDEAS FOR GOOD 編集部

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