ダイバーシティ研修の逆効果。ポストMeToo時代の新しい働き方

illustration by Masao Yamazaki

ウォール・ストリート・ジャーナル紙で初の女性副編集長を務め、USAトゥデイ編集長、米ガネット最高コンテンツ責任者(CCO)などを歴任し、それらの媒体を6回のピュリッツァー賞受賞に導いた米ジャーナリスト、ジョアン・リップマン。

米国でベストセラーになった『女性がオフィスで輝くための12カ条 #MeToo時代の新しい働き方』(文藝春秋)の著者でもあるリップマンは、「女性」対「男性」という対立意識を捨て、「平等な世界を望む人間」として協力し合うことが大切だと説く。

どうすれば性差別のない職場が実現できるのか。男女平等の新しい働き方とは? ニューヨークで多忙な日々を送る彼女に話を聞いた。


──あなたの本は、女性会議の講演に向かう機中の場面から始まっています。談笑していた隣席の男性に出張内容を告げた際、彼は「ソーリー! 私は男なんだ」と言い放ち、「ゾッとするような」ダイバーシティ研修の経験を語ったそうですね。

ダイバーシティ研修を「罰」ととらえる男性は多い。「あなた方が問題なのだ」と非難されているように感じ、おびえてしまうのだ。そもそも、ハーバード大学のフランク・ドビン教授の研究結果から、ダイバーシティ研修は役立たないことが明らかになっている。

彼が800社超の企業を対象に、過去30年にわたる同研修の実態を調べたところ、研修実施企業では女性の昇進機会などがむしろ少なかった。研修だけで満足してしまうからだ。男性の怒りを買うこともマイナスに働く。自著を通し、男性を攻撃しているのではないことを伝え、ともに解決策を探れば、よりよい世界にできることをわかってもらいたかった。男性を対話のなかに取り込むことが大切だ。

──あなたは2人の子どもを育てながら、ハードなジャーナリズムの世界でキャリアを築きました。

母親業と責任の重い仕事を両立させることが最も大変だった。企業の意識は徐々に改善しているが、女性はいまも悪戦苦闘している。男性中心の業界で働くことにも困難が付きものだ。

コロナ禍で女性が苦境に陥っている。失業したり、子どもの自宅学習や家事で退職を余儀なくされたりした女性は全米で何百万人もいる。男女で解決していく必要がある。ダイバーシティは、よりよい経済的結果を生み、従業員の幸福感も定着率も高まる。

だが、役職が上がるにつれ、女性が減っていく企業は多い。女性は出産などで退職するからシニアレベルの人材が足りないというのが企業側の言い分だが、実態は違う。女性は十分な支援や指導、機会を得られないため、会社にとどまる理由がないと感じるのだ。男性と同じ昇進や指導の機会を与えれば、女性のシニア人材は育つ。収益や株式リターンと同じく、採用・昇進の男女比などにも目標設定が必要だ。

──どのように困難を克服したのですか。

ウォール・ストリート・ジャーナル時代の男性上司に恵まれた。妊娠・育児で昇進機会を何度も断ったが、彼らがオファーを与え続けてくれた。そして、2番目の子どもが幼稚園に入ったとき、週末版『ウィークエンド・ジャーナル』の立ち上げを打診され、「イエス」と答えた。それは大成功を収め、私のキャリアが花開く契機になった。

上司らが私をリストから外さずにいてくれたことが、私のキャリアにとっていかに重要で不可欠なものだったか。今度は私が他の女性に恩送りする番だ。
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インタビュー=肥田美佐子

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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