でも「あれ?クラウドファンディングという言葉は単なる概念ワードなんじゃないか?」と「穿ち癖」を発揮し始めるきっかけがありました。
それはMakuakeを使ってくださる実行者様のこんな声でした。
「中山さんたちの事業の価値は資金調達という一義的なものではない。ものづくり企業にとって、今までは商品を作ってからしか売れなかった中で、Makuakeを使えば顧客を獲得してから商品を作れる。これは生産ステップのイノベーションなんだよ」
その時にハッとさせられました。学者やメディアの方から「新しいCSRの形だ」「新しい金融の形だ」などと言われてもどれも的外れだと感じていた私にとって、どんな専門家の言葉よりも腑に落ちた言葉だったのです。
「顧客を獲得した上で商品を作る」と文字にしても、決してメディア受けのしない言葉かもしれません。でもこれこそがイノベーションであり、我々の事業の本質。そう気づくことができたのが転換点だったように思います。
──たしかに、毎年のようにトレンドワードが生まれますが、それに惑わされずに事業の本質を見ることが大切だと。
私もベンチャーキャピタルをやっていたから投資家やメディアが「トレンドワードを作りたがる」気持ちは分かるんですよね。
でもこれも藤田晋さん(現サイバーエージェント社長)に予言者のごとく言われていたんです。「トレンドワードはどこかでお別れするタイミングが来るから」と。
本当にその予言通りだったので(笑)、やはりトレンドワードに流されず、本質を見極めることが大切だと思います。
「三現主義」で物事を見る
──トレンドワードに惑わされず、事業の本質を見極めるためには何を意識すればよいでしょうか?
私が顧客から気付かされたように、現地・現物・現実、いわゆる「三現主義」に基づいて物事を見ることだと思います。想像だけで走るのではなく、現実を知るために汗をかく、というのがとても重要です。
私自身、先ほどの答えにたどり着くまでに、何百社と実際に顧客にアポイントを取り、実際に工場を見させていただいたり話を聞かせていただきました。
何が本当の課題で、何が自分たちの価値の本質なのかを理解するためには、やっぱり汗と時間を費やして現実を見ないといけないと思います。
──今はネットで情報が集められる分、つい簡単に理解した気持ちになりがちです。
今ここでお話ししていることも記事になるわけですが、ここに書かれていることから何か自分なりに答えを紡ぎ出してしまいがちだと思います。でもそれでは本当の答えにはたどり着けない。
一歩踏み出して汗をかいて現場に行き、実際に現物に触れ、自分で話を聞いてみる。
本当のチャンスは「三現主義」の中から見えてくるものだと信じています。
中山 亮太郎(なかやまりょうたろう)◎1982年生まれ。慶応義塾大学卒業。06年、サイバーエージェントに入社後、藤田社長のアシスタントやメディア事業の立ち上げを経て、2010年からはベトナムにベンチャーキャピタリストして赴任し、現地のネット系スタートアップへの投資を実行。13年、サイバーエージェント・クラウドファンディング(現 マクアケ)を設立し、代表取締役社長に就任。同年、産業支援のためのアタラシイ応援購入体験を提供するオンラインプラットフォーム「Makuake(マクアケ)」をリリース