ワクチン接種とオリンピック開催の条件


しかし、5月中旬以降の政府の動きは速かった。国は、高齢者3600万人の接種終了の目標時期を7月末と設定して、市区町村に接種の迅速化を促すとともに、接種の担い手資格者に、歯科医を追加、その後救急救命士、臨床検査技師によるワクチン接種も「特例で容認」することとした。東京と大阪には自衛隊の運営による大規模接種会場も設置、5月24日から接種が始まった。都府県のなかにも独自の大規模接種会場を設置するところが増えている。また、ワクチン接種のキャンセルが出るなどの場合には、接種希望する人は誰でも接種してよい、という指針も徹底された。さらに、会社や官庁など、職域単位の接種も提案されて、年齢別の市区町村接種と並行した接種の加速が可能になった。

ワクチン接種で大きく先行するアメリカでも、ワクチン接種が始まってしばらくは、ワクチンの供給が遅れていて、予約が取りにくい状況が続いていた。接種場所も州が設定する、市町村に数カ所の会場に限られていた。多くの混乱もあった。しかし、アメリカ全体で、3月初めには1日200万人ペース、4月初めには300万人ペースに接種が加速、5月には予約なしでワクチン接種が受けられるようになった。4月以降、飲食店の店内営業も段階的に緩和され、6月には営業時間の制限も定員の制限も撤廃された。

接種率の推移をみると、日本の接種率は、米国にほぼ4カ月遅れで推移している。おそらく、9月末には、日本でも感染率の低下が実感され、レストランの全面再開が視野に入るはずだ。しかし、残念ながら、オリ・パラには間に合わない。オリ・パラの開催には、選手も含めて関係者全員のワクチン接種、毎日のPCR検査を徹底することが重要になる。現在、世論調査では開催賛成・反対が、ほぼ拮抗しているが、感染対策の具体的な中身を示していくことが政府に課された喫緊の課題である。(6月7日記)


伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学客員教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph. D取得)。1991年一橋大学教授、 2002〜14年東京大学教授。近著 に『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。

文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN No.084 2021年8月号(2021/6/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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