未来はどこまで意志で変えられるか。最新脳科学で見た「決断の境界線」

ケンブリッジ大学の神経科学者 ハナー・クリッチロウ


──スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクのように、革新的なアイデアで世界を動かす起業家や成功者に憧れる人も多いと思います。彼らのような革新的な考えができる神経回路は、訓練すれば手に入れられるのでしょうか。

世界的に有名な成功した起業家の多くは、ADHD(注意欠如・多動症)だと診断されています。彼らはとても革新的で創造的で、時に気まぐれで、長期間大きな企業を管理するのに適していない場合もあります。この社会で大事なのは多様性があることです。

社会では、一人ひとりが特殊で固有な脳の神経回路をもっていて、非常に複雑なシステムのもと、独自の行動を取っています。そうすることで、社会全体として一人ひとりの偏りや違いのバランスが取れているのではないでしょうか。確かに革新的な人も必要ですが、リスク回避型の人も必要です。考え方や能力の多様性こそ社会の力になるのです。

『「運命」と「選択」の科学(英語版はThe Science of Fate: The New Science of Who We Are - And How to Shape Our Best Future)』。クリッチロウのデビュー作品。人間の人生はどこまで生物学的に決まっており、どこまで自分たちの人生を変えられるのか、最新の脳科学の知見から「運命」を考察する。


Hannah Critchlow◎ケンブリッジ大学の研究員。1980年、イギリス生まれ。精神科病院で看護助手として勤務後、神経科学をブルネル大学で専攻し、ケンブリッジ大学で博士号取得。2019年、ネイチャー誌に生物科学の「希望の星」のひとりとして紹介される。

編集=成相通子 イラストレーション=山崎正夫

この記事は 「Forbes JAPAN No.084 2021年8月号(2021/6/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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