新型コロナウイルスに見舞われた世の中、2度目の株主総会となり、新しい生活様式を見据え、斬新な戦略を打ち出した社があったかと問われれば、それは「否」と応えるしかない。
リモートワークが日常となり、人類史上いまだかつてないほどオンライン会議が増え、通信環境に依存するビジネス環境に移行し、通信大手にとってこれまでにないほどのビジネスチャンスに恵まれているという現況にも関わらず、株主総会という特殊な場においては、守勢に周るしかなかったかと、慮ってみる。
総会の模様は三者三様。これまでの各社のバックグラウンドをそのまま踏襲したカタチで目新しさはなかった。比較して見ていきたい。
孫正義会長お得意のムーンショット AI分野に注力
孫正義会長は相変わらず、大谷翔平のホームラン並のムーンショットを打ち出すのが得意だ。今回は、投資家と資本家を定義し直した。「投資家=お金を作る」「資本家=未来を創る」と明言。「金の亡者」たりえる出資者を「投資家」と再定義し切り捨て、社会や会社に未来を託す出資は「資本家」の役割だとして祭り上げた。
もちろん、これに乗せられる出資者もいれば、斜に構え穿った見方をする出資者もいるだろう。だがビジョンとして定義付けられてしまうと、正面切っての反論も難しく、出資者自身がどちらの立場をとるのか選択を迫る巧妙な戦略に見えた。
さらにその「資本家」にとって出資先は「AI」であると明確に打ち出した。内需ばかりに固執する日本企業は、この分野においてGAFAを始めとする海外企業に太刀打ちできない。現在に至るまでのAIへのビッグデータ・インプットにおいて10年は遅れととってしまったのがその原因であり、私の古巣であるNTTドコモ社内の若手も単独でこれを覆すのは不能という見方を示している。
だが「資本家」であるソフトバンクはこれまでどおり出資にてこの局面を乗り切る戦略を踏襲し、特にAI分野に力点をおくと明言。この分野では3社から抜きん出る可能性があり、注視すべきだろう。
株主からの「携帯電話料金はまだ下がるのか」という質問に対しソフトバンクの宮川淳一CEOは同意を示したが、これまでの通信3社の値下げ方針が、政府主導で進められた経緯を振り返れば、ソフトバンク主導で携帯電話料金が驚くほど値下げされるとは考えにくい。
ましてや大手各社が、これまでの通常料金モデルから格安スマホブランドまで揃えてしまったいまとなっては、これ以上値引き競争を加熱化させても、ドラスティックな契約者増は見込めない。料金引き下げに積極的に関与する戦略を取ると想像するのは難しい。
また「リモートによる株主総会は問題ないのか」という株主からの質問も飛び出した。もしこれが本気だとするなら、孫会長が先に示した「資本家」としての資質は希薄であり、「総会では株主の前に顔を揃えよ」という旧来型のメンタリティを露呈した「投資家」が、ソフトバンクの株主には多いのか……と穿った見方をすることができる。孫会長は、こうした時代錯誤な出資者に左右される日本の会社には将来はないと感じたからこそ、冒頭のように資本家と投資家の新定義をしたのだと考えるのは、深読みし過ぎだろうか。