ビジネス

2021.06.29 16:30

革新のソフバン、安定のKDDI、迷走のNTT ──大手通信3社の株主総会から透ける実情

ソフトバンクホールディングスの孫正義会長。今回の株主総会で打ち出したのは?(Getty Images)


auは優等生だ。累計240万台の5G端末を3月末までに世に送り出し、5Gと「ライフデザイン」の融合を提唱。コロナ禍の追い風を受け、特にライフデザイン領域は9%の売上増、11%の営利増と順調であり、特にau PAYなど金融関連サービスの堅調さが貢献しているとして、増収増益を印象付けた。通信が今後のメイン・インフラであるという認識をもっとも強く押し出している印象を与えることに成功。今後、ここで提唱するように5Gで仮想空間と現実空間をどう紐付けて行くのか、具体的な発表が期待される。
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接待問題で、散った「5G元年」から1年の成果


株主総会を点数で評価するなら、NTTが3社中最下位であった点は否めないだろう。澤田純社長らが総務省幹部を飲食接待したという問題を追及されたため、報道でもその問題がクローズアップされ、世間から同社の事業戦略が注視さえる舞台は雲散してしまった。澤田社長が昨年発表したトヨタとの連携や、NECとの資本提携後の取り組みの進捗が話題となるかと期待されただけに残念だ。

私もNTTドコモ時代、総務省官僚と飲食をともにする機会はあったが、世間的常識として常に「割り勘」と決まっており、この相互理解が進んでいるからこそ、お互いに廉価な店をわざわざ選んで、それぞれ相談を持ち込んだもの。それなのに、上層部では接待が行われていたと露呈。従順な社員は誰も口にしないだろうが、株主同様に内心呆れた官民双方のメンバーも少なくなかった。

NTTグループは東京五輪のスポンサーでもあり、かねてから「beyond 2020」を標榜し、2020年を「5G元年」と打ち出し、五輪では5Gのショーケースを具現化する目論見があった。だが、1年間、時間の猶予が与えられながら、メインスタジアムである国立競技場でも高密度Wi-Fiの敷設に留まり、5Gの声が聞かれないのは残念至極である。
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NTTドコモはBリーグの「夢のアリーナ」構想に呼応して、名古屋、神戸などで5Gを含む最新テクノロジーを駆使したアリーナ建設に乗り出している。今後はこちらに期待を寄せるべきだろうか。

NTT 高密度Wi-Fi
国立競技場に敷設された高密度wi-fi図(NTTグループ提供)

5G時代の到来とともに、3社ともに打ち出している戦略は「日常生活」の変革だ。NTTドコモには「スマートライフ・ビジネス本部」、ソフトバンクには「ライフスタイル推進室」が存在し、auは今回の株主総会でも提言していたように「ライフデザイン」という言葉で新しい生活スタイルを定義している。

それらの動向を踏まえると、もちろん株主総会という性質からして具体的なサービス発表の場ではないものの、ここでいくばくかは、新しい生活スタイルへの明確なビジョンが欲しかったのは正直な感想だ。

2020 年以降、5G通信基地の普及よりも、5G端末の普及に時間がかかると読まれていたが、auのレポートにもあるように5G端末は3月までに前年比で13.9%増、現在すでにキャリア問わず800万台が出回っていると推計される。だが、端末の普及に順調に進む中、逆にUGCを支えるような5Gを駆使したサービスが各社からは聞こえて来ない点は気がかりだ。

たとえ黙っていようが、通信料金で実入りは担保されている。社員としても失点を避けるためには、不確実性だけが頭をもたげる新サービスに首を突っ込み、火傷を負うよりも「現状維持」で十二分に生き延びることができる環境は整っている。そんな環境がアダになり「日常生活の変革」をもたらす新サービスの現出は難易度が高い──それが通信各社のおかれた実情かもしれない。

そんな事業会社から、革新的なサービスが繰り出されるのか。期待とともに、改めて今後のサービス発表に注視したい。


連載:5G×メディア×スポーツの未来
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文=松永裕司

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