あるレストランで学んだ「常連」になる秘訣

放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」では、今夜も新しい料理が生まれ、あの人の物語が紡がれる……。連載第9回。


先日、「第2回 匿名希望展」というチャリティアートイベントが東京ミッドタウンで行われた。作品はすべてSMキャンバス(W22.7xH15.8cm)で統一され、有名アーティスト、ファッションデザイナー、タレント、シェフ、美術学校の学生、子どもたちなど幅広い方々からテーマに沿った230作品が集まり、匿名で展示販売された(僕も第1回に2作、今回は1作品出品している)。

購入価格は、最低4000円で、購入者自身が金額を決められる。つまり、「描いた側」ではなく「買う側」が、作品の価値を決めるということだ。また、「匿名」なので、作者の知名度や年齢、性別、画歴などの情報に惑わされずに購入できるし、手元に届くまで「誰の作品なんだろう?」というお楽しみ感が続くのがとてもいい。作品の収益は、一部運営費を除き、支援が必要な世界の子どもたちに画材やクレヨンに換えて届けられる。会期は約2週間あったのだが、230作品が3日で売り切れたそうだ。

ちなみに今回のテーマは「HAPPY」で、僕は白いキャンバス地にまさしく“HAPPY”の象徴のようなレモンイエローの縞模様が描かれた作品を気に入って購入した。イベント終了後に届いたその作品を裏返すと、作者の名前とともに「ちょっと視点をずらすだけで『幸せ』は見つかります」というコメントが。よくよく見返せば、キャンバス地の白を生かした「幸」という漢字が浮き上がってくるではないか。このコンセプトと表現の卓越さに「参りました」と口にしたのは言うまでもない。

大好きな店を応援するということ


知人に著名なアートコレクターがいる。彼は有名な作家の作品を買うことには興味はなく、購入したコレクションの作家たちが時代を経て高く評価されていくことがたまらなく好きだという。決して金もうけしたいのではない。自らの「先見の明」に、喜びを感じるわけだ。

僕は、アート収集癖はそれほどないが、レストランに対して同じような喜びを感じることがある。
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写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN No.081 2021年5月号(2021/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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