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2021.07.02

アマゾンCEOが「師」と慕った男、ジェフ・ウィルクの教え

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従業員数に応じてするべきこと


文化が変容し、リーダーに求められるタスクも変わることがある。従業員数をn(x100)とするなら、nイコール1、2、3、4、5のフェーズそれぞれに必要なリーダーシップがある。アマゾンは今「フェーズ6」にあたる。

従業員が100人以下なら全員を覚えられるし、社内を歩き回って管理できる。適切に実践すれば、そのうちもっとも重用すべき10人が誰かもよくわかる。

nが3や4になると、誰かの手を借りなければ、従業員がリスクをとり、その失敗から学ぶ環境を維持するのが難しくなる。

その場合は、何か別の仕組みや工夫が必要になる。

さらにnが5や6になると、映像を通じて接する機会が多くなるので、「画面上でも現実味が感じられるように」しなければならない。

優れた師は「優れた学習者」


能力は大事だ。自分がまったく理解できていないことを人に教えるのは不可能だ。

社会に出たばかりの頃、わたしは選択肢を最大限にするためにさまざまな経験を積んだ。いろいろな分野の能力を身につけたおかげで、教えることが容易になった。

人に教えるには自分も生涯学び続けなければいけない。教えるとは、ある時点に達したら、それまで学んだことを伝授するだけで、新たに学ばなくなることではない。教育は双方向のプロセスだと思う。

優れた師は、優れた学習者である場合が多い。そして、コミュニケーションの方法、そして相手と真の関係を結ぶ能力を備えた人は優れた師になれる。

組織の拡大に伴い、幅広く教育を提供する仕組みづくりも大切だ。直接対面している場合は、声と表情を効果的に用いれば、話の内容とそれを本人が信じていることを伝えられる。

本人が信じていないことや、映像を経由して伝える場合、相手を信じさせることは難しくなるだろう。

教師への信頼は学習の一部だ。疑いたくなるときもあるが、教師は有能な人だと信じるべきだ。

優れた師は相手を気遣い、みずからも優れた学習者でなければならない。

しぶしぶ引き受けるのは愚の骨頂だ。私もアマゾンで、最重要課題として教育に取り組んでこれたことを信じている。

ジェフ・ウィルクの現在とこれから


ここまでウィルクの言葉をそのまま再現したが、ここからは私、ジェームズ・クーリエが、ウィルクの退任後のことを書こうと思う。

ウィルクの退任後、ジェフ・ベゾスは言った。「ジェフが入社してきて、彼のような師に巡り合えたのだけでも幸運だった。彼が去ってもその伝説と影響力はずっと残り続けるだろう。彼がいなければ、アマゾンがこれほど知られる存在になることはなかったのは間違いない」

ウィルクは今、この半年ほどは1月に共同で起業した「Re: Build Manufacturing(リビルドマニュファクチュアリング)」で働いている。CEOはMIT(マサチューセッツ工科大学)大学院時代の友人で、ウィルクは執行権を持たない会長を務めている。少数ながら素晴らしい投資家と有能な取締役会に恵まれているようだ。

リビルドマニュファクチュアリングは米国内に工場を建設し、米国の労働者を雇用する多角的工業企業を目指している。本物の技術力(材料科学、物理、機械工学)を持っているか、最新の技術は持っていないがPMF(市場の需要に適した製品を提供すること)に定評があり、一定の収益力があるか、どちらかの企業の買収から着手している。

こうした買収、そして、コンピュータ科学と自動化を適度に駆使したオペレーション会社を組み合わせることで、世界中の競合他社と十分に渡り合えるとウィルクは考えている。

再生可能なエネルギーや垂直農法など、物理的構成要素を必要とする新しい産業には、いずれ工業と工業製品のサプライチェーンが必要になるはずだ。ウィルクは「長続きし、重要な役割を果たす会社に育てて、文化をつくりたい」と語る。

彼がここでも最初にしたのは「リビルドウェイ」と呼ばれる、リーダーシッププリンシプルの作成だった。ウィルクは、「アマゾンでそうだったように、この指針が企業文化にわずかでも影響を与えられることを願っている」と話す。

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翻訳・編集=北綾子/S.K.Y.パブリッシング、石井節子

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