「借金で税控除」の合法的テクニック
プロパブリカによれば、所有株の株価上昇によって富を増大させているのが彼らメガリッチたちだが、現在の税法では持ち株の価値増加分は「所得」とみなされない。つまり、所有する株の売却をせず、「富」が増えた分は現金化しないので、「課税対象となる所得」が生じないのだ。
ジェフ・ベゾスを例に取れば、彼の財産の大部分は言うまでもなくアマゾンの「株」である。そして、株を売ればキャピタル・ゲイン(株式譲渡益)課税をまぬがれない。
が、ベゾスには、株を現金化する必要がない。すでに十分に裕福だからだ。
ジェフ・ベゾスが「1億ドルの邸宅を買う」ときにすること
たとえばベゾスが、新しい邸宅を買うのに1億ドル必要になったらどうするか。ニューヨーク・タイムズがポッドキャスト配信する「ザ・デイリー」や、「フィナンシャル・タイムズ」など英米メディアの解説によれば、ベゾスは銀行に顔を出して、「僕には担保があることを知ってるよね、ちょっと1億ドル貸したまえ」と言えばいい。
なぜなら借入金の利息の方が、株式譲渡益税よりも格段に低いからだ。つまりベゾスは株は1株も売らず、借金を選ぶ。そして利息を払うためには、また借金すればいい。借金の利子は所得控除にもなる。
ベゾスは、われわれ庶民の感覚でいえば「莫大な」借金をしているかもしれないが、そもそも、おそらく彼にとってそれは二束三文の金額だろう。
ちなみに保有資産1770億ドル(約19兆6200億円)のベゾスがアマゾンから受け取っている「年俸(課税対象となる所得)」は、実にわずか81840ドル(約900万円)という。
今年4月には、「富裕層が税制の脆弱性をどう利用して高額納税を回避しているか」を解説した書籍『Tax the Rich!(金持ちに税を払わせろ!)』も発行された(Getty Images)
アメリカが長者たちに「塩対応」だった時代
だが米国政府にもかつて、メガリッチを「泥棒男爵」と呼び、目くじらを立てていた時代があった。
現状の税法では、アメリカにおける2025年までの最高税率は37%だが、たとえば第26代米大統領セオドア・ルーズベルトの時代、1944年、富裕税は実に91%だったという。
その後まず、ケネディ大統領が富裕層緩和政策を打ち出す。さらに第二次大戦後の冷戦時代を経て、レーガン大統領が、当選直後の1981年に「経済再建税法」を制定、個人所得税の最高税率を70%から50%引き下げる。レーガノミクスといわれる景気刺激策、いわば「バラ色のシナリオ」である。
その後、1987年公開のオリバー・ストーン監督の映画「ウォール街」が大ヒットした際は、伝説のカリスマ投資家、ゴードン・ゲッコーに憧れる多くの青年が金融業界に身を投じたという。「経済こそが王だ」というこの頃のムードは、アメリカのメガリッチたちにとってはいわば追い風になった。