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最先端の経済誌「Forbes JAPAN」の記事紹介


「日本のスーパー約2万2000店のうちデジタル化ができているのは4%」と矢本は言う。日々入れ替わる生鮮食品や商品数の多さからスーパーはデジタル化をしたくとも難しい。そこで、小売・流通事業者を対象に、既存の商品データと連携するだけでネットスーパーを展開できる「Stailer」を開発した。

「国内ネットスーパーの大手であるイトーヨーカドーやライフにアプリを導入したところ、お客さんの買い物滞在時間が平均20分から8分に短縮され、逆に訪問継続率と購入頻度が上がりました」と、矢本は言う。

チェーンストア事業者はオペレーションを効率化させ、客はアプリで買い物体験ができるうえ、重い荷物を運ばなくてもよい。ここに配送業者も組み込み、配送システムを効率化した。「三方よし」の事業でいきなり70社から問い合わせがあり、「インフラになれる」と矢本は確信したという。このインフラを持ち込まなければと矢本が思ったのが、東北だった。人口減少と高齢化により、スーパーは撤退しがちで買い物が不便になっていたからだ。

「ジレンマの回収です」


今年3月、東北地方に325店舗を展開するドラッグストアチェーン「薬王堂」と10Xは提携を発表した。薬王堂は食品を強化したコンビニとドラッグストアが融合した店舗で、人口密度が低い商圏でも成り立っている。アプリで商品を注文すると、商品をドライブスルーや店頭で受け取れる。来年には自宅やオフィスに商品を配送できるようにするという。

今後、さらなる高齢化で交通弱者の買い物難民は増加していき、生活インフラである小売店も効率化が求められる。さらに、コロナ禍で高齢者には外出リスクがある。そこで薬王堂と提携して、Stailerの導入をスタートさせたのだ。

「ジレンマの回収です」と、矢本は言う。復興支援で感じたジレンマ、被災地で見せつけられた起業家たちの姿、そして「10倍」で非連続な成長を社会に実装するという目標。約10年越しのストーリーが次の章に移ったとも言えるだろう。

矢本の話を聞きながら、私たちに必要なのはこうしたストーリーではないかと思うようになった。長い時間軸のなかで、今立っている地点から目の前のことだけを考えると、「AIによって消える職業、残る職業」などに関心がいきがちだ。しかし、「消える職業」に怯えるよりも、いま必要なのは身近なところから探す「新しい稼ぎ方」かもしれない。

勝者が他を圧倒する「ゼロサム」ではなく、いま、世界で起きている「ポジティブ・サム」を見てみたい。そんな思いから、Forbes JAPAN(6月25日発売)で「日米中『新しい稼ぎ方』」を特集してみた。「他者をエンパワーメントする」ことが偽善ではなく、それが社会を前進させることだと感じてもらえるかもしれない。

文=藤吉雅春

起業家

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