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シネマ未来鏡


翌々日、郵便局近くの写真店の前を通りかかると、「目をしっかりと見開いた」自分の写真が飾られているのを見つける。どこかの海辺で撮られた写真で、店主に尋ねると、顔を腫らした男が現像を頼みに来たという。そして、良い写真だったから、店頭に飾っているのだと。

この写真をきっかけに、シャオチーの「消えたバレンタインデー」の謎を解くシーク・アンド・ファインド(Seek & Find)が始まる。

観るたびに新たな伏線を発見


作品の前半では、突然訪れたシャオチーの「恋」模様が、彼女の物語として描かれる。演じているのは、明るいキャラクターが人気で、台湾のテレビ番組などで司会者としても活躍するリー・ペイユー。仕事も恋も拗らせがちな30歳の女性を、表情豊かにコミカルに演じている。彼女の闊達な演技も、この作品の魅力の1つだ。

シャオチーが「消えたバレンタインデー」を探しに出かける中盤から、作品の様相はガラリと変わる。もう1人の視点、何においてもワンテンポ遅いバスの運転手ウー・グアタイ(リウ・グァンティン)が新たな語り手となり物語は描かれていく。


(c)MandarinVision Co, Ltd

グアタイは、毎日のようにシャオチーの働く郵便局にやってきては、窓口で手紙を出すための切手を買っていた。それも整理券番号を何枚も手にして、必ずシャオチーの窓口に当たるようにしている。彼女に好意を寄せているのだが、そのぎこちない仕草が、シャオチーや彼女の若い同僚からは「変人」と呼ばれている。

作品では、このグアタイを語り手とする物語が、シャオチーの「消えたバレンタインデー」の秘密を解き明かしていく構造になっている。詳しく書くと興味を削いでしまうので留めておくが、バレンタイン当日、グアタイは自分以外のすべてのものが止まっているという不思議な現象に遭遇し、そこから意外な展開がスタートしていくのだ。

「1秒先の彼女」という作品は、とにかく物語が巧みに練られている。中盤で視点が転換する物語の構造ももちろんだが、時系列の処理や登場人物たちのさりげない会話の端々まで、作品を面白いものにしようとする意思が貫かれている。

ひと言で言ってしまえば「時間をテーマにしたラブコメ」なのだが、そう言い切ってしまうのが憚れるほど、映画的な楽しみに溢れている。何度も観直してみたが、その都度、新たな伏線に気づいたり、登場人物たちのセリフが持つ重みに唸らされたりした。


(c)MandarinVision Co, Ltd

監督は、かつての台湾映画界の新世代で、「異端児」の異名も冠されたチェン・ユーシュン。1995年に発表した長編第1作の「熱帯魚」は、ビル街のなかを巨大な熱帯魚が泳ぐというシーンが印象的で、誘拐事件を扱いながらも、そのコミカルな演出がとても魅力的な作品だった。

第2作の「ラブ ゴーゴー」(1997年)では、充たされぬ日々を送る冴えない若者たちを、いまにも通じるポップでカラフルな感覚で描き、ビタースイートな青春映画として若い世代を中心に人気を集めた。

文=稲垣伸寿

映画
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