AIで死者を蘇らせるイスラエル企業「D-ID」の野心的な目標

Rouven Markovic / EyeEm / Getty Images

イスラエルのスタートアップ企業「D-ID」は、AI(人工知能)を用いて過去を生き生きと蘇らせるテクノロジーで、今年に入り2回も注目を浴びた。同社は、先祖の肖像写真をディープラーニング技術でリアルに動かせるテクノロジーの「Deep Nostalgia」を、家系図サイトMyHeritageにライセンス供与した。

MyHeritageのモバイルアプリは22カ国のApp Storeでトップに立ち、この4カ月間で8500万以上のアニメーションが作成されている。

さらに4月下旬には、故人のデジタル資産を管理するGoodTrust社と提携を結び、人々が自分のデジタルレガシーを作成し、管理できるようにした。

D-IDは、2025年に2.7兆ドルに達すると予測されるAI市場を再構築するという、野心的な目標を立てている。同社のCEOであるギル・ペリーは「今から10年以内に、メディアとエンタメ業界の制作現場に巨大な混乱が訪れる。私たちは、その混乱をリードし、AIのみでハリウッド映画を作る最初の企業になる」と述べている。

2017年にイスラエル国防軍(IDF)の諜報部隊出身のペリーらが設立したD-IDは当初、プライバシー保護にフォーカスする企業として設立された。社名のD-IDは匿名化(de-identification)を意味している。彼らは、「顔に関連するディープラーニングとコンピュータビジョン」について世界で最も多くの専門知識を持つ人々をアドバイザリーボードに招き入れ、顔写真を匿名化する技術を確立した。

しかし、プライバシー保護はさほどの収益をもたらさない。D-IDは、自動車業界を中心に多くの顧客を獲得することに成功したが、パンデミックの影響で、プライバシー保護への関心や投資は低下している。

その結果、D-IDのメンバーらは、自分たちの技術を使って何ができるかを考え、新たな鉱脈を見つけ出した。「私たちは、AIが良い方向に使われるように、ポジティブな目標に向けて発展させようと考えた」とペリーは話す。

D-IDの技術は映画業界ではまずドキュメンタリー作品で活用され、内部告発者の身元を保護したり、アーカイブされた写真を生き生きと再現するツールとして用いられている。同社が先日公開したユーチューブ動画では、1954年に亡くなったメキシコの画家フリーダ・カーロが、1946年に描いた絵画「傷ついた鹿」について語っている。



D-IDの技術は他にも、ストックフォトの画像に動きを加えてコンテンツの価値を高めたり、Eコマースサイトのコンバージョン率を向上させるための画像の加工にも用いられる。さらに、ここ最近注目のNFT(ノンファンジブル・トークン)分野では、デジタルアートに新たなテイストを加えることも可能だ。

「当社の長期的ビジョンは、AIが生成するメディアで動画エンターテインメント分野の次のディスラプションをリードしていくことだ」とペリーは述べた。

編集=上田裕資

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