もう一つの日常が自分と世界を救う。「異日常」マーケティング

在宅ワークが続くいま、なんとなく平坦で刺激のない日常生活を送っているひとは少なくないだろう。コロナ禍とはいえ、せっかくの人生を惰性で過ごすのはもったいない。

日常が平坦ならば、もうひとつの日常をつくってみてはどうか。夜19時以降はダンサーに、毎週末はアパレル店員に。異なる日常を意図的につくることで、日々にメリハリが出て生き生きと過ごすことができるはず。そしてそれは、新しいビジネスチャンスにもなりうるのだ。



ふぅ〜、明日提案のキャッチコピーをなんとか書き上げ、ほっとひと安心。久しぶりに武術の稽古に行こうと準備していると一通のメールが。

「Forbes JAPANの原稿書けた?」。ちょっと〜、ぼくの「異日常」を邪魔しないでよと思いつつ、平常心で対応するのがコピーライター兼武術家というもの。というわけで本日は「異日常マーケティング」をご紹介させていただきます。

「非日常」ではなく、「異日常」


画一化されたテーマパークのような「非日常」の世界ではなく、自分たちとは異なるライフスタイル、ほかの地域から見ると魅力的な「異日常」が観光資源となりリピーターを増やす。これからの観光の要となるという、まちづくり観光研究所の主席研究員である山田桂一郎さんの考えにインスパイアされ、一橋大学の楠木建教授が唱える「異日常マーケティング」。

それはひとりの人間の生活において、日常とは異なるもう一つの「異日常」をもつことで幸福度が上がり、経済も活性化するという考え方。特別な日の「非日常」ではなく、その人にとってはごくごく普通の、でも日常とはちょっと違うもう一つの日常が「異日常」です。

具体的にどんなこと? そんなあなたのために、私たちは半年以上の月日を費やし「異日常」をもつ方々を取材。価値観や消費変化などをまとめた『異日常図鑑』を作成しました。

『異日常図鑑』を見てみよう


まずページをめくると、日常はデザイナーとして働くNさんの事例。彼女の「異日常」は山ガール。月に2回は季節にあった山域やルートを登山する生活を送っています。5年前からはロッククライミングにも挑戦。極度の人見知りだったところから友達も増え、日常でも新しいことに挑戦するようになったそう。仕事で嫌なことがあっても、山でのトラブルに比べたらささいなこと! と割り切れるようになりました。


さまざまな「異日常」をもつ人々の暮らしが記録されている『異日常図鑑』。

次は、日常は映像関連会社に勤めるKさん。彼の「異日常」はトライアスリート。自転車は複数台所有し、平日の朝夜に数十キロ自転車で走る生活を送っています。オンオフを切り替えることが苦手でしたが、トレーニングに没頭することで得意に。仕事に好影響があったと感じているようです。

さらに、日常は総務の仕事をするMさん。彼女の「異日常」は週一の靴職人。夜、工房に通い、靴づくりに取り組んでいます。最近はお財布など小物も自分でつくっており、持ちものは自分でメンテナンスすることが基本に。仕事が大変でも、靴づくりに没頭する時間が心を落ち着かせてくれます。
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文=廣瀬 大 イラストレーション=尾黒ケンジ

この記事は 「Forbes JAPAN No.081 2021年5月号(2021/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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