ビジネス

2021.06.29

衛星データを活用、農業の課題解決を目指す神戸発スタートアップ「サグリ」

6月3日に1.55億円の資金調達を記者会見で発表した坪井俊輔


日本ではいま、耕作放棄地が増えている。ところが、その実態がなかなか掴めていない。自治体の農業委員が毎年1回農地を調査して、所有者の意向を踏まえた対策を取ろうとしているが、その調査方法は現地に赴いて実際に確認するもので、大変な手間がかかってしまう。加えて、調査結果と実態が一致しているのかも疑問だというものだった。

それを聞いた坪井は、サグリが持つ人工衛星からの画像データを分析することで、この問題を解決できる可能性があると提案。「日本の課題にもぜひ貢献したい」と実証事業に取り掛かることになった。

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人工衛星のデータで不耕作地を赤く抽出

国からの後押しもあって、現在は、神戸市、名古屋市、静岡県の裾野市、石川県の加賀市などで、不耕作地を調査する実証事業が始まり、他にも40近い自治体と導入に向けた話をしているという。

しかし、その矢先にライバルも現れた。土地の測量に取り組むいくつかの企業が、同様のサービスを提供しようと開発を進めているというのだ。坪井は他社との競合については次のように語る。

「ライバル企業が現れることは想定していたことです。僕たちは、衛星画像と実際の農地を比較して、AIで不耕作地を判定します。これは、過去の膨大なデータを蓄積すればするほど、不耕作地を判別できる精度が上がるため、先行企業が有利になる。勝ち筋はあると考えています」

では、どのようにして精度を上げていくのか。坪井からは明快な答えが返ってきた。

「実は、写真だけを見ているわけではないのです。僕たちは、人間の視覚で感じられる可視光だけでなく、目に見えない近赤外線などの波長が地面からどう跳ね返っているのかというデジタルデータを精査しています。最小30センチ四方の単位でその数値を見て、判断しているのです。

こうすることで、作物の種類はもちろん、コメの花が咲いたかどうか、それによって面積当たりの収穫量が昨年よりどのくらい増えるかどうかまで推測が可能になります」

コロナ禍の影響で、いまは海外での活動は休止している坪井だが、将来への思いを次のように語る。

「インドだけでなく、東南アジアやアフリカへの進出を目指しています。ただ、それらの地域の農家は貧困に苦しんでおり、収量や品質が上がると説明しても、このアプリを導入してくれません。ここが知恵の絞りどころです。インドの銀行が融資したときのように、お金が動くところでこれを使えば、手数料として回収できるので、ビジネスとして成り立ちます。

農協のような組織が作物を買うときにも機会があります。結果として、農作物がたくさん獲れ、品質が上がればいい。途上国の農業を私たちの技術で変えていけたらと思っています」

連載:地方発イノベーションの秘訣
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文=多名部重則

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