自然災害により故郷を追われる「気候難民」 2050年までに12億人が避難の可能性も

気候難民とは?(Shutterstock)


政府が対応も、不十分な点も


各国政府の認識も深まりつつある。パリ協定の採択直前の2015年、欧州連合のユンケル委員長(当時)は施政方針演説の中で「気候変動が人々の大規模な移動を引き起こす新たな要因となっている。もし、われわれがこの問題に早急に対処しなかったら気候難民の問題がわれわれにとっての新たな問題となるだろう」と述べて取り組み強化の重要性を指摘した。欧州議会でも議論が始まっている。

米国のバイデン大統領は就任直後の2月に大統領令を発し、国家安全保障担当のサリバン大統領補佐官に対して、気候変動の影響で住居を追われた「気候難民」をどのように認定し、彼らにどのような保護や支援を米国政府が与えられるかに関する見解を、連邦政府の関係部局と議論をしてまとめるよう支持した。補佐官の報告は21年8月にも大統領に提出される予定だ。

といっても問題の深刻さに対し、国際社会や各国政府の気候難民への取り組みが十分なものであるとは言い難い。その理由の一つは「気候難民」に関する明確な定義がなく、この問題の実態解明や対策に取り組む国際的な組織や制度も存在しないという点だ。

気候難民は、人種、宗教、その他の理由により、迫害されるという十分な根拠のある恐れを持つ人々を保護する1951年の「難民の地位に関する条約」の保護対象には当たらず、条約による保護の対象にもならない。気候難民に関する公式のデータは存在しないに等しい。彼らが「忘れられた気候変動の犠牲者」と呼ばれる所以だ。

気候難民問題が深刻化するなか、国境を越える気候難民とともに国内で移住を迫られるInternally Displaced Persons(IDP)を含めてその定義の明確化と包括的なデータの収集、彼らを保護するための国際的な仕組みづくりが急務になっている。パリ協定を採択した2015年の気候変動枠組み条約の下での取り組みの在り方の議論をさらに進めてゆくことが望ましい形かもしれない。

遅れる日本の取り組み


多くの先進国に比べ、日本では気候難民問題への関心も、それに関連する気候安全保障という考えに関するアウェアネスも十分とはいえない。しかも日本の難民保護対策はかねてから不十分なものであることが指摘されている。受け入れ人数だけを見ても、2019年に日本で難民と認定された人の数はわずか44人。同年に54000人を受け入れたドイツとは比べものにならない。

気候危機の影響を受ける人々が多く暮らすアジアの一国として、日本でも気候難民の問題と真剣に取り組むことが急務だ。さもないとそう遠くない将来に、日本は気候難民がもたらす大きな安全保障上のリスク、「国際的な評判のリスク」に直面することになるだろう。

(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)

連載:世界が直面する課題の解決方法
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文=Tetsuji Ida, Senior Staff Writer and Editorial Writer, Kyodo News

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