自然災害により故郷を追われる「気候難民」 2050年までに12億人が避難の可能性も

気候難民とは?(Shutterstock)


始まった国際対応


そのなかで、問題に対する国際的な対応も徐々に進み始めた。

2018年に国連が採択した「安全で秩序ある規則的な移住に関するグローバルコンパクト」は、大規模な人々の移動が発生する要因の一つとして「気候変動がもたらす悪影響、環境破壊」があることを明記し、自然災害、気候変動の悪影響、砂漠化、土地の劣化、干ばつ、海面上昇などの環境悪化により出身国を離れざるを得ない移民について、出身国での適応や帰国が不可能な場合、計画的な移転やビザの選択肢を考案するなど、「気候難民」が到着した国での保護に各国が取り組むと明記した。

これに先立つ2018年3月には、国連人権理事会が、海面上昇などの気候危機がもたらす国境を越える人々の移動の問題を、人権保護の観点から議論した成果文書を採択した。文書は海面上昇などによって長距離の移動や越境を迫られる人々の中には「難民」の定義に当てはらまない人も多く、越境してきた人々を意に反して元の国に追放・送還しないという「ノン・ルフールマン原則」が適用されないなど、彼らの人権を守るための法制度などが不備であるとの問題点を指摘した。

その上で、各国政府に、人権が守られるような条件での居住を可能にすることで大規模な移動を防ぐこと、気候変動への適応の手段として人権に配慮した計画的な移転を促進するなど「人権保護の考え方を気候変動対策の計画と実施に組み込むことが重要だ」と指摘した。

2020年1月に国連の人権委員会が下した決定も関係者の大きな注目を集めた。海面上昇で国土消失の危機に立つ南太平洋の島国、キリバス出身のイオアン・テイティオタさんは「気候難民」としてニュージーランド政府に難民申請をしたが認められず、2015年にキリバスに送還された。これを不服として彼は、16年に、送還によって、生存権を侵害されたとして、国連自由権規約委員会に提訴していた。

委員会は、テイティオタさんは差し迫った命の生存の危機に直面しているわけではないとしてニュージーランド政府の決定を支持したものの、海面上昇などの「気候変動の影響が、キリバスのような国に暮らす人々の生存権への深刻な脅威になっている」ことを認め、各国の裁判所などは、移住者を出身国に送還することへの異議申し立てに際しては、これを考慮しなければならないと結論づけた。

決定は「生きる権利を侵害するような気候変動の影響に直面する人々を元の国に送還することはできないと判断した。気候変動を原因とする難民申請への扉を開く決定だ」と評価されている。
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文=Tetsuji Ida, Senior Staff Writer and Editorial Writer, Kyodo News

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