なかでも比較的よく知られているのは蘭州牛肉麺だろう。中国への留学経験のある日本人オーナーが、2017年8月、数ある蘭州牛肉麺チェーンのひとつ「馬子禄(マーズルー)」を神保町に開店し、人気を博した。これに便乗した中国系のオーナーたちが、都内各地に別ブランドの蘭州牛肉麺の店をいくつも出店している。
蘭州牛肉麺は、中国西域のローカル麺。さっぱりした酸味のあるスープとコシのある手打ち麺が人気
そもそも中国の外食チェーンの日本への出店が始まったのは、2000年代後半だった。最も早かったのは、オペレーションが比較的簡単だったモンゴル火鍋の「小尾羊(シャオウェイヤン)」や「小肥羊(シャオフェイヤン)」で、少し遅れてきめ細かいサービスが売りの「海底撈火鍋(カイテイロウヒナベ)」が2015年9月に池袋に出店している。
そして、2018年頃から、中国各地のローカル料理の外食チェーンの出店が始まった。先ほど3大チェーンでいうと、福建省の地元のローカルフードを出す「沙县小吃」(2018年6月)と、鶏の土鍋で有名な「楊銘宇黄燜鶏米飯」(2019年12月)が、ともに高田馬場に出店した。
これらの店は、中国に本社がある外食企業から商標やノウハウを提供された日本在住の中国系のオーナーたちがフランチャイズ経営しているケースが多い。日本在住の中国の人の多くは、地元で見たことがある店も多く、懐かしさを感じていることだろう。
筆者は、海を渡って日本に来た中国語圏の調理人たちが供する店を、前述のように「チャイニーズ中華」と呼んでいる。そして、近年の彼らの精力的な都内での出店ラッシュがもたらしている新しい食のシーンを「東京ディープチャイナ」と名づけた。
その特徴は大きく2つあり、中国各地の珍しい地方料理が味わえるようになったこと。そして、中国の外食チェーンが出店していること。マーラータンの楊國福麻辣燙は、そのわかりやすい事例と言っていいだろう。
2000年代以降、サイゼリヤやココイチなどに代表される日本の外食チェーンの多くが上海などの中国の経済先進都市に出店したが、2010年代に入ると、逆の流れが起きていたのである。
両者に共通する課題は、現地の人たちにどう受け入れられるかであるのだが、現状をみる限り、中国の外食チェーンはまだ日本の人たちに浸透しているとは言えないだろう。それがこれからどう変わっていくのか、筆者はこうした動向を興味深く注視していきたいと思っている。
連載:国境は知っている! 〜ボーダーツーリストが見た北東アジアのリアル
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