「スープは、想像以上にコクがあり、クリーミー! 人生初マーラータンでしたが、豊かなスパイスを感じられる濃厚なスープで、抵抗なく味わえました。辛さは、3段階の真ん中の『中辛』を選びましたが、辛いもの好きな私にとってはちょうど良い辛さでした。
徐々に花椒の痺れが効いてくるため、油断して食べ続けていると、後半はかなり舌が痺れます。スパイスの辛さが体を温めてくれ、どこからともなくパワーが湧いてきました」
麻辣料理であるのに、「コクがあり、クリーミー!」という感想はちょっと意外な気もするのだが、彼女の言うように辛さが選べるからだろう。これも万人の口に合わせるというチェーン店ならではの営業努力と言えなくもない。
スープ代+具材(~100g=400円)と量で料金が決まるシステム
人生初マーラータンだったという彼女の話を聞いて、筆者は初めて自分がこの店を訪ねた1年前のことを思い出した。そのとき、店内には日本人客は自分しかいなかったのだが、隣の席に1人の若い女性客がいた。なんとなく中国の人ではないと直感したので、「外国の方ですか?」と聞くと、韓国の人だった。
彼女によれば、「マーラータンは韓国でも大人気。ソウルにはたくさんマーラータンの店がありますよ」と教えてくれた。確かに、四川風の痺れが抑えられ、韓国の人が好きそうな味だと思った。
興味深いことに、このチェーンを創業したのは中国西南部の四川省出身の人ではなく、中国東北部の黒龍江省出身の人物だ。いまでこそ、多くの中国の人が激辛料理を食べる時代だが、もともと四川地方以外の人は麻辣味が苦手な人が多かった。中高年以上の世代はいまでもそうである。
この創業者は、四川ものに比べると辛さや痺れをマイルドにして食べやすい味つけにし、具材をカスタマイズできるシステムを採用したことで全国展開に成功したと言われている。そのため韓国の人もそうだが、日本人にも食べやすい味になっているのだと思われる。
肉や海鮮、野菜など種類は豊富。真ん中のレバー風に見えるのは鴨の血(ヤーシュエ)と呼ばれる四川の人気具材
今日の東京には、マーラータンに限らず、中国のローカル料理の外食チェーンが続々とフランチャイズ出店している。コロナ禍で、昨年の日本の外食チェーンの売上は過去最高の落ち込みを記録したと報じられているのにもかかわらず、中国の外食チェーンの出店が続いているのは驚きといえるだろう。
中国のローカル料理の外食チェーンの出店
中国で本格的な外食チェーンが生まれたのは、2000年代に入ってからと言っていい。現在、中国の3大外食チェーンといわれるのは、福建省が拠点の「沙县小吃(シャーシェンシャオチー)」、山東省の「楊銘宇黄燜鶏米飯(ヨウメイウホンメンジーミーファン)」、甘粛省の「蘭州牛肉麺(ランジョウニュウロウミエン)」だ。これらは中国全土に5000店規模の展開をしている巨大チェーンである。