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2021.06.24

リーダーの「思い込み」が人を動かす 山形スイデンテラスの開発秘話

ヤマガタデザイン代表取締役 山中大介

山形県鶴岡市に、面白いまちづくり会社があると聞いて訪問したのは2017年。当時はただ水田が広がるいわゆる何もない地域だった。

それから4年経ち、その水田の中に全119室の、水田が一望できる部屋を備えたホテルが建設された。その名も「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」。全国でも類を見ないホテルはテレビや雑誌などで多数取り上げられ、筆者もよく目にしていた。

「スイデンテラス」は木材をふんだんに使い、建築家の坂 茂さんが設計を行った庄内の魅力が詰まったホテルだ。

水田テラス

今回筆者は初めてこのホテルに泊まってみたが、控えめに言って最高なホテルだ。立体感のある木造の屋根がエントランスの階段を1段登るごとに「ようこそおかえり」と言うかのように、非日常の世界へ木の香りとともに迎えてくれる。

SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE

館内には優しい光が差し込み、そのゆったりと包まれるような内包感は、都会で張り詰めた緊張の糸を解いてくれるようだ。食事も庄内の海の幸、山の幸、そして地元ワインが楽しめる。

このホテルをプロデュースしたのは、庄内地方のまちづくり会社「ヤマガタデザイン」代表の山中大介だ。

東京から移住したら地域の課題がたくさん見えた


山中大介

山中は、東京で生まれ、大学卒業後、大手不動産会社でデベロッパーとして働いていた。仕事を楽しむと同時に今後の人生のあり方を模索していた山中は、山形県鶴岡市にある、蜘蛛の糸を参考にしたタンパク質繊維の開発などで知られるバイオベンチャー「Spiber」に入社。庄内に移り住むことになる。移住して程なくして、山中は地域で起きている多くの課題を目の当たりにした。

「これこそが俺が力を発揮するべき場所だ」

自分が培った経験で庄内に貢献したいという思いから、地域課題の解決をデザインするヤマガタデザインを立ち上げた。

最初に取り組んだのは、山中が移住する前から課題としてあがっていた、農地を転用した地域の開発プロジェクトだった。

そして農地転用を行った後に取り組んだホテルづくりは、全てが手探りだった。この土地にホテルが必要だという思い先行で作ったため、ホテル経営をしたことがある人材はほとんどいなかったのだ。

ホテルでも重要な要素であるレストランには当初、シェフがいなかった。地域のレストランにお客様を誘導したいという思いからだったが、お客様からの予約は入る。そこで山中は、ホテルとは別で経営していたカフェのカレーや唐揚げなどを提供した。高級ホテルに宿泊するお客様のニーズとはあわず、宿泊客からのレビューには辛辣なコメントが並んだ。

そんな状況から現在のようにホテル経営を軌道に乗せることができたのは、持ち前の「思い込む力」によると山中は言う。

「僕が唯一自信をもっていえる強みは、思い込む力です」
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文=齋藤潤一 写真提供=ヤマガタデザイン

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