【独占】銀熊賞受賞『偶然と想像』濱口監督が語った、ベルリン映画祭の知性

濱口竜介監督


違和感をなくすために。一度目の緊急事態宣言明けに演出を変更


──撮影時の印象的なエピソードはありますか?

第3話を昨年の緊急事態宣言が明けた7月くらいに撮ったんです。その時は本当に久しぶりに人と顔を合わせて仕事ができるという喜びがありました。コロナ禍の状況の中でできるだけ距離を保ちつつも、体の接触があるシーンもあって、本番ではしっかり抱き合う。そういうことに喜びを感じられる撮影だった気がしますね。まだまだ世界中こういう状況なので、見ていただく人には共感していただけるのではないかなと思いました。

──脚本はコロナ前に書いたわけですが、それこそ偶然がもたらすつながりを感じますね。設定もコロナ禍を反映したようなものになっていましたし。

ある部分は付け加えたんですよ。90パーセントくらい同じ話なんですけど、今の時代に自分が撮ってて、違和感があるようなものにはしたくなかったので。

──違和感というのを作らないように意識的に擦り合わせていったんですね。

そうですね。どちらかと言えば、規模的にもパーソナルな側面の強い映画ではあるので、物語性は大切にしつつも自分があまり気持ち悪くなくやれるように。撮ってる自分が現実を無視しすぎている感じにならないように考えた設定というのが第3話には入っています。そういう、自分の身体感覚とかい離していないものをつくることが、こういうある種インディペンデントな映画を作る意義だと思っています。

「偶然と想像」濱口竜介監督
『偶然と想像』(c) 2021 NEOPA / Fictive

──日本国内では12月に上映を控えているわけですが、見どころを教えてください。


役者さんの演技、に尽きると思います。むしろそれしかない。会話に引き込まれていくうちに、もしかしたらこの人は本当にそういう人なんじゃないかと、感じるようなことが現場でもよくありました。セリフがセリフに聞こえないような瞬間がどの物語にもあります。

──これからも「偶然と想像」の続編も手掛けていく予定ですし、濱口監督の長編作とは別の側面を示す大事な作品になっているということですよね。

そうですね。できるだけその時々に自分がやりたいことに応じて課題を設定しつつ、それをちゃんと面白く、観客まで届けたいと思っています。

濱口竜介監督


濱口竜介◎1978年神奈川県生まれ。脚本家、映画監督。2021年、第71回ベルリン国際映画祭で『偶然と想像』が銀熊賞を受賞。これまで第68回ロカルノ国際映画祭最優秀女優賞受賞『ハッピーアワー』をはじめ、第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に『寝ても覚めても』が選出されている。村上春樹原作の最新作『ドライブ・マイ・カー』が第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出され、8月20日より全国公開が決定。

『偶然と想像』
2021年12月、Bunkamuraル・シネマ他全国ロードショー

監督・脚本:濱口竜介
出演:(第一話)古川琴音 中島歩 玄理/(第二話)渋川清彦 森郁月 甲斐翔真/(第三話)占部房子 河井青葉
撮影:飯岡幸子 プロデューサー:高田聡 製作:NEOPA fictive 121分 
配給:Incline LLP 配給協力:コピアポア・フィルム

文=冨手公嘉 写真=Hinata Ishizawa

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