朝日新聞外交専門記者


ただ、菅首相が力及ばない点も明らかにあった。首脳たちは、どうでも良いあいさつを繰り返しているだけだから、気後れせずにニコニコと笑顔で会話の輪に加わっても良かった。それができないところに、菅首相の限界がある。

4月に米ホワイトハウスで行われた日米首脳会談でも、舞台裏でこんなやり取りがあった。日米関係筋によると、ホワイトハウスが公表した日米首脳の写真について、日本側から「もっと、総理のイメージが良くなる写真を使って欲しい」という不満の声が出た。これに対し、米側から「菅総理の表情が乏しすぎるからだ。首相官邸は、総理が笑った瞬間のわずかな映像だけを選び抜いているのかもしれないが、我々にそこまでの余裕はない。日本の官僚はもっと、総理に表情管理のアドバイスをするべきだ」という反発の声が上がったという。

自民党のベテラン議員によれば、菅首相は全く笑わないわけではないし、相手の地位によって差をつけるようなこともしないという。ただ、人見知りが激しいのか、打ち解けた相手でなければ、素直に喜んだ表情を見せないという。この議員は「菅さんは元々、総理を目指してきたわけではない。社交をうまくこなすタイプでもない」と語る。

外交の舞台で語学は周りのサポートで補えるが、人間力までは補えない。外務省関係者は「我々が政治家に期待するのは、トーキングポイントには書けない政治的なやり取り」とも語る。そして、それが政治家自身の利益にもつながる。外交は国威発揚の場所でもある。G7での菅首相のポツンぶりにがっかりした声が上がれば、それは菅首相自身に跳ね返ってくる。

かつて、1983年に米ウイリアムズバーグで開かれたサミットでは、中曽根康弘首相がレーガン米大統領のそばを離れず、写真撮影で中央に立つことに成功した。当時はまだ、写真撮影の立ち位置について明確な決まりがない時代だった。日本政府の元高官は「中曽根さんは、日本が国際社会でどう見られるかを意識していた。決して独りよがりのパフォーマンスではなかった。菅さんは政権をどうやって維持するかで頭がいっぱいで、世界のなかの日本を意識する余裕などないのだろう」と語る。

首相官邸のホームページをのぞくと、G7の場で各国首脳と和気あいあいで接する菅首相の写真がたくさん掲載されていた。菅首相もそれだけ、世論を気にしているということなのだろう。

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文=牧野愛博

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