従来、こうしたアイテム販売は物理的な媒体を介して行われるものでした。デジタルデータは誰でも無数に複製できてしまうため、売り物にはならなかったからです。
物理的な媒介を伴わずに世界中の誰に対してもアイテムを販売できますから、生産や流通などの事情でターゲットにしづらかった海外居住者にもアイテムを直販し、代金を受け取れます。
加えて、制作や公開の過程で既にデジタル化されていたものに、後付けで希少性を付与して商品化できるため、原価をほとんどかけずに既存IPの収益力を強化できる点も、各社がこぞってNFTに取り組む理由の1つでしょう。
3. 限定コンテンツ(同人物販や数量限定CDなど)の発展型
2の例ではあくまでコレクション性に重きが置かれており、NFT化するアイテムやコンテンツの中身は既知で構いませんでした。
ここで紹介するのは、NFT自体に「購入者にしか内容を知り得ないコンテンツ」としての価値を内包するユースケースです。具体的には楽曲や動画、記事コンテンツの視聴用パスワードなどがNFTに付随しているものを指します。
世界的なVRアーティストのせきぐちあいみのNFTアートは、VR空間内での視聴体験を撮影した動画をNFT化したものとして発行され、その動画を楽しむことができるのは所有者のみとなっています。
これらは、同人誌即売会での書籍販売や、インディーズアーティストの会場限定販売CDのようなユースケースに近く、より希少性が高い場合にはパトロン個人が鑑賞するために描かれた絵画のようなものとも考えられます。
この場合、発行者は制限をかけたデータストレージへのアクセス権のような扱いでNFTを販売し、購入者は発行者の作品を観賞するためにNFTの所有権を購入することが一般的です。
従来の物販手法の場合、こうした1点モノのアイテムは生産コストと販売単価が釣り合わないことが多いのですが、NFTの場合はデジタルデータを商品化する際にかかる際のコストが低く、流通・販売経路も問われないため、クリエイターが個人であっても収益化が期待できるというメリットがあります。
NFTは販売や流通の新しい選択肢の1つ
4. 美術品等の鑑定書の発展型
Beepleの「EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS」は約75億円で落札された(Shutterstock.com)
一見すると3によく似ているものの、意図や目的が異なるのがこのユースケースです。
すなわち、絵画や美術品、アート作品などに対してオークションハウスなどが付与していた「鑑定書」をブロックチェーン上で電子化することで、来歴や真贋を証明可能にし、正しい所有者かどうかを判断しようというアプローチです。
美術品を取り扱うクリスティーズなどでも、ある作品が本物か否かを判断するためには鑑定書だけでなく、発表当時のカタログや雑誌記事などを参照しています。その代わりに、改ざんや偽証が困難なブロックチェーン上で来歴証明を実施できるよう、作品と一体的に移転する鑑定書を発行します。
特に、デジタルネイティブなアート(イラスト作品やAR/VR作品など)は、従来の鑑定書等ではどの時点のどれがオリジナルかを証明することが難しかったこともあり、高い親和性があると言われています。
実際にデジタルアートとして過去最高額の落札金額となる約75億円で取引されたNFT作品「Everydays–The First 5000 Days」は、世界的に著名なアーティストのBeepleが数年間かけて描いてきたスケッチのデジタルデータを集約したもので、リアルの物品は存在していません。