取り替えの効くものとして、最も身近な例は私たちが日常的に利用するお金です。例えば、皆さんの財布の中にある1万円札には、記番号などの識別情報が含まれています。通常、私たちはこれらの識別情報は気に止めず紙幣を扱っていますし、1万円札は他の1万円札や千円札10枚などと交換することができます。
しかし、1万円札の記番号や発行年度などの識別情報や固有の状態に着目すると、他の1万円札とは全く異なる物品であると考えることも可能です。特に、記番号がゾロ目の場合や発行年度が元号の変わり目である場合など希少性が高いものは、額面以上の価値を持つことがあります。
このように、通常は他の紙幣や物品と取り替えの効く「1万円札」であったとしても記番号や紙幣の状態、発行枚数といったメタ情報(データについてのデータ)によって、取り替えのきかない唯一無二の物品として扱うことが可能になります。
NFTでは、特定のデジタルデータをブロックチェーン上で固有の存在として扱うために、鑑定書のようなメタ情報をデータに付与します。
先の紙幣の例や骨董品の鑑定番組などを見てもわかるように、鑑定書や所有証明書、サインなどといったメタ情報の有無によって物の価値は大きく左右されます。メタ情報が物の希少性や意味性を裏付けるからです。
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例えば、目の前に古ぼけたボールが2つあったとしても、片方に「長嶋茂雄が最初に打ったホームランボールである」という鑑定書と所有者への宛名、サインが添えられていれば、価値に大きな差異が生じます。前述のツイッター創業者のジャック・ドーシーのNFT化されたツイートに高額の価格が付けられるのはこれと同じ理由からです。
つまりNFTとは、デジタルデータにさらに鑑定書や所有証明書、サインに相当するメタ情報を紐付け、唯一無二の存在として扱うことを可能にするアイデアということになります。
NFTはアナログとデジタルの良いとこ取り
「偽造不可な鑑定書&所有証明書付きのデジタルデータ」であるNFTの魅力は2つの側面から読み解くことができます。
第一に、NFTは従来のデジタルデータとは異なり、現実世界で販売し流通されるアイテムと非常に近しい性質を持った「物品」とみなすことができる点です。
NFTには鑑定書に相当する識別情報が付随しています。この識別情報はブロックチェーン上でその「確かさ」が担保されているため、複製やコピー品との違いがひと目でわかるようになっています。従来のデジタルデータはコピーを行った際に、オリジナルと完全に同一のデータを作成することができましたが、NFTの場合はオリジナルをオリジナルとして主張することが可能です。
また、NFTの有する識別情報は他のNFTと被ることがありませんから、無数にコピーがつくられ価値が希釈してしまうデジタルデータとは異なり、1点モノあるいは数量限定品として、物品同様の希少価値を持たせることが可能です。
さらに、NFTは特定のサービスやシステムではなく、ブロックチェーンというオープンなネットワーク内で発行されます。
従来のデジタルデータは、そのデータを扱う事業者のサーバー内などで管理されており、そのデータを利用者がサービス外で利用することが容易ではありませんでした。