ところが、コロナ禍の影響により、この1年ほどは、こうした全ての映像マーケットがオンライン開催に切り替えられたのです。これが契機となって、番組販売のオンライン取引が以前より活発に行われるようになりました。
世界では続々と、番組販売のECシステムが開設されています。2019年1月にローンチしたシンガポールを拠点するVuuulrもそのひとつ。70言語にわたる2万2000以上のタイトル、計14万時間に及ぶコンテンツを並べ、グローバルで取引される流通を促進させています。
Vuulrのイアン・マッキーCEOは、こう言います。
「6500人のセラーと5000人のバイヤーが利用し、2021年3月は1400件以上の契約が結ばれました。注目すべきは契約までに要した時間です。平均10日間という最短期間で視聴者にコンテンツに届けることができる仕組みがつくられています」
この言葉からもシステムが軌道に乗っていることが伺えるでしょう。
中国でも、2020年11月、Sino marketplaceがローンチされました。運営するのは、中国最大手の映画・ドラマのプロダクションHuaceなどが出資したSinoMediaです。中国のみならずアジアから広くコンテンツを取り揃え、アジア全体の流通の活性化を狙っています。
世界の動画配信市場のシェアは北米と中国とで約半分を占めていますから、世界をリードする中国からも、新たなデジタルマーケットの場が生みされていることは当然の流れでしょう。
リアルとオンラインが並行して進んでいく時代
とはいえ、コロナ禍が落ち着けば、MIPTVやMIPCOMなどの映像マーケットは、リアルでの開催を復活する線が濃厚です。実際に前述のリード・ミデム社は、10月に予定されているMIPCOMを現地カンヌで開催することを決定しており、6月18日の時点で北米、欧州、アジアの34カ国から159社のテレビ局や映像スタジオなどが参加を表明しました。
動画コンテンツの売買をオンラインで行うという新しい潮流は、果たしてリアルのマーケットに打撃を与えるものになるのでしょうか。主催するリード・ミデム社のマーケット開発ディレクターのテッド・バラコス氏は「競合はしない」と即答でした。
なぜなら、同社はリアルでの開催と同時に、年間通じて利用できるデジタルコンテンツプラットフォーム「One MIP」を今年12月にローンチする予定だからです。コンテンツ購入の機能は伴いませんが、コンテンツの視聴やバイヤーとセラーを繋げるネットワーキングの場がインターネット上で提供されるとのこと。
バラコス氏は次のように説明します。
「世界中の新作がOne MIPに集まるでしょう。それはバイヤーにとって利便性が高いと同時に、セラーにとってもプロモーションの場として有効活用できるはずです。これまで通りリアルのマーケットも開催していきます。企画開発の段階からコンテンツ制作を進めるケースが増え、その場合は特に初期のディナーを含めて顔を突き合わせて議論を高めるやり方に価値があると考える参加者は多いのです」
映像コンテンツの世界取引は、リアルとオンラインを並行しながら進めていく時代に入っています。フジテレビのJETも、これら商流の変化に合わせて立ち上がったと言えるでしょう。新たな商機を掴むためには、変革を起こす必要があったのです。
連載:グローバル視点で覗きたいエンタメビジネスの今
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