外交官もため息 コロナが封じた「腹の探り合い」

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日本各地で、新型コロナウイルスに対するワクチンの職域接種が始まった。東京・霞が関にある日本外務省でも15日ごろから職域接種についての通知が始まった。在外公館に転出する人、危機管理要員、東京夏季五輪・パラリンピックの関係者を優先的に接種するほか、希望する外交官にも接種を行うという。知り合いの外交官は「外交官も新聞記者も、人に会ってこその商売。ようやく光が見えてきた」と嬉しそうに語った。

もう1年半にわたって続くコロナ禍だが、それでも昨年末くらいまでは、外務省では不自由ながらも、少しは行動の自由があったという。それが一転したのは今年2月半ばだった。すでに1月8日に3回目の緊急事態宣言が出てから1カ月ほど経っていたが、突然、外務省内で「不要不急の会食・会合の禁止令」のお達しが出たという。

背景には「霞が関村」での様々な騒動があったようだ。当時は、総務省幹部らが、菅義偉首相の長男などから国家公務員倫理法に抵触する恐れがある接待を受けた問題が表面化していた。そして、4月になると、厚生労働省老健局老人保健課の職員23人が深夜まで送別会を開いた末に、クラスターが生まれる事態も発生した。霞が関への風当たりがどんどん強くなるにつれ、当初は「不要不急」の定義を巡って、「公費を使わず、外務省員同士でもなく、少人数で防疫措置がある場所で、なおかつ必要な場合」といった厳しい例外を認めていた外務省も、最近では「大臣と次官が認めない限り、会食も会合も禁止」というところまで、統制が強化されていたという。

海外の在外公館勤務の外交官は事情が異なるが、少なくとも東京の本省勤務の外交官たちのなかには、「仕事は原則オンラインだけ」という事態に追い込まれていた人も少なくなかった。

「どうせ外交官なんて、おいしいもの食べて社交しているだけでしょう」という誤解が世間にあるかもしれない。もちろん、そういう遊んでいるだけの外交官も知っているが、一生懸命仕事をしている外交官もまた多い。ある外交官は「オンラインだと、まとめられる交渉もまとまらない」とぼやいていた。外交はよく「51対49の勝負」とも言われる。ゼロサムゲームにすると、負けた側に恨みが残り、良い関係が続かない。お互いに国益や世論も背負っている。特に領土問題のような場合、対話が仕事の外交官たちは時に、国賊呼ばわりされながら仕事をすることになる。

ぎりぎりの線で妥協するためには、まず、相手がどこまで譲歩してくれるのかをあらかじめ、知る必要がある。インテリジェンスで情報収集することもあるが、外交協議の場で、「ちょっとちょっと」と言って、誰にも聞かれない場所に移動して、こっそり相手の本音を探り合うことがよくある。1997年12月に京都で取材した国連気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)も当初、米国は温室効果ガスの削減目標ゼロを主張し、全く交渉が進まなかった。それでも水面下の交渉の末、最後には1990年比で、2008年~2012年の間に削減する目標を日本6%、米国7%、欧州連合(EU)8%などとする京都議定書がまとまった。当時、徹夜続きの交渉でフラフラになった外交官たちの姿を今でも思い出す。
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文=牧野愛博

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