外交官もため息 コロナが封じた「腹の探り合い」

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また、日本の話ではないが、韓国中央情報部(KCIA・現国家情報院)で北朝鮮を長く担当した康仁徳元統一相から興味深い話を聞いたことがある。康氏がKCIA局長だった1971年9月、板門店で初めて南北赤十字会談の予備会談を開いた。南北は接触経験がなく、相手の腹が読めなかった。北朝鮮は「社会主義は最高だ」などと形式論ばかり唱え、協議は難航したという。

別室でモニターを見ながら韓国代表団を指揮していた康氏は、北朝鮮代表団で端に座った男が気になった。団長でもないのに協議が行き詰まるとメモを回し、会談後は最後に部屋を出た。金徳亨と名乗ったがが、KCIAに資料はなかった。康氏はKCIAの部下に、この金と名乗る男と接触するよう命じた。部下は会談の際、金に紙切れをそっと手渡した。「我々2人だけで話をしないか」。会談後、部下は別室で「私は赤十字の者ではない。KCIAだ。お前は誰だ」と尋ねた。金は「中央党政治局の指導委員だ」と答えたという。そこから、秘密接触が始まり、1972年7月の南北共同声明につながったそうだ。

知り合いの外交官の1人も「オンライン会議だと、どうしても建前が先行しちゃうんだよ。誰が横で聞いているかわからないしね」と話す。さらに、初対面の相手が出てきたりすると、呼吸を合わせるのにも苦労するという。「相手が本音を語れる人物なのか、それとも上司の腰ぎんちゃくみたいな奴なのか、日本が好きなのか。そういうことは、公式の交渉の場だけではわからない」。逆に、信頼関係がある相手なら、交渉もスムーズに進む。

外交官たちの多くが会食に精を出すのもこのためだ。外交官の1人は「どれくらい、相手のことを大事に思っているかを示すためにも、会食は絶好の場」と語る。事前に相手の好みを調べるのは当然として、高いワインを飲ませたり、相手国との外交を繰り広げた因縁の場所に連れて行ったり、様々な工夫をする。

お国柄というものもある。複数の外交官によれば、韓国人は酔いつぶれると喜ぶ。中国人は楽しく飲みながら、厳しく人間観察をする。「注がれた酒をむげに断って、二度とお誘いがかからなくなった」という人もいる。米国人はビジネスライク。ご馳走になった後、「今日の食事の分だけ、情報を提供しよう」と言ってのけた米国人外交官もいた。

すでに人間関係ができている相手なら問題ないが、コロナ禍のなかでは新しい人間関係が作れない。困っているのは、外交官や記者だけではないだろう。

世界では今、ワクチン接種の証明書を提示することで、お互いに入国後の自宅隔離措置を免除する案を模索する動きが始まっているという。真正の証明書かどうかを判断するフレームワークづくりの検討も始まっているようだ。冒頭紹介した外交官氏は「まだ、小さな一歩だけれど、早く外交も報道も、元の世界に戻れるといいですね」と語った。

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文=牧野愛博

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