欠ける難民保護の視点 日本で入管法改正が「私たちの問題」として共感された理由

6月20日は世界難民の日。日本でも難民政策への関心が高まっている(shutterstock)


移民、難民問題に対して共感の輪が広がった理由の一つとして、石川さんは「ハッシュタグがポジティブなメッセージなので、呼びかけやすかったのでは」と推測する。また、入管施設で体調の悪化を訴えたが収容されたまま、今年3月にウィシュマさんが亡くなった問題で実態解明が不十分だとして、入管行政側への不信感が高まったのもあいまって、事情があって不法滞在となる移民や難民の窮状に目を向ける人も多かったのだろう。

「廃案については歓迎していますが、まだ懸念は残っています。これからが議論のスタート」と、石川さんは捉えている。

難民支援協会 代表理事 石川えり
難民支援協会代表理事 石川えり

日本が欠ける「保護」の観点 3つのポイント


では、日本の難民認定や入管法の何が問題なのだろうか。ここでは、入管法のなかでも特に難民認定に焦点を当てる。一言で言えば、ツイッターキャンペーンのハッシュタグにもあるように「保護」の視点が欠落しているという点だ。日本では、2020年の難民認定者は47人にとどまり、認定率はわずか0.5%。特に難民認定においては、主に3つの問題点があるという。

1.不適切な審査基準


まず、UNHCRなど国際的な基準に沿っておらず、迫害を認定する難民の定義について独自の解釈がされている点だ。石川さんは「難民条約では、難民を保護しなくてはならない。難民が誰かについても条約に定められていますが、日本では、その点、不適切な解釈がされています」と指摘する。

そもそも難民とは「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れた」人々と定義されている。また、UNHCR・難民認定基準ハンドブックによると、迫害とは「生命または自由に対する脅威、人権の重大な侵害、特定の差別の累積」を指す。だが、日本では後者の2点(「」内の太字部分)が考慮されていないなど、狭く解釈されている。この解釈の違いが、認定数の少なさにつながっている。

2.手続き保障が不十分


次に、手続き保障に公正さと透明性が確保されておらず、難民認定は行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ることを目的とする「行政手続法」の適用除外であるという点だ。そのため、難民認定の審査基準の公開や代理人の参加も認められていない。国際的に見ると、フランスやドイツ、イギリス、韓国などでは一次審査は弁護士が同伴でき、録音・録画がされるが、日本ではいずれも認められていないという。

3. 審査の独立性が担保されていない


さらに、入管行政から難民認定の審査の独立性が担保されていないという点だ。一次審査と審査請求(不服申立て)の審査をいずれも出入国在留管理庁が行うが、本来「出入国管理」と「難民保護」とは、その目的も、必要な知識や経験も異なる。また、審査請求が一次審査と同じ機関で行うこと自体も課題だ。

例えば、フランスでは、難民認定をするための独立した行政機関があり、決定まで省庁には介入されない。さらに不服申立ても独立しており、裁判所に準ずる機関で原則合議制で審査される。

UNHCRグランディ高等弁務官は、2019年8月来日時に「難民認定業務の専門性・独立性をより高めるために、その組織のあり方について検討することを求めたい」と法務大臣に提言している。合わせて、入管法とは別に難民に特化した法律の必要性を強調した。
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文=督あかり

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