これにはいくつもの理由がありますが、中国や米国のようなスタートアップ大国と比べると、日本のスタートアップの成功実績が規模的に小さく見えるというのがまず理由として挙げられます。
また、言葉や文化の壁のせいで、日本は投資家から「ブラックボックス」のように思われてしまう傾向があります。
さらに、日本では1000億円以上の大きな結果を出すのが非常に難しいと思われていて、通説のようになってしまっているせいもあるでしょう。
最初の2点については、日本びいきの自覚がある私でも同意せざるを得ません。
しかし、最後の点については、もっと詳細に考え直してみる必要があると考えています。
この通説を作り出している原因の1つが、「ユニコーン」にこだわりすぎている現在の風潮です。
ユニコーンばかりが世間から注目を集め、特に海外メディアではユニコーン以外の日本のスタートアップがほとんど取り上げられません。
ただし、「ユニコーン」の定義については、厳密には10億ドル(ざっくり言えば、1000億円)以上の企業価値がつけられている「未上場」の企業であることを先に述べておきます。
これまでは、20億円以上の資金を調達したくても、日本では上場する以外にあまり選択肢がありませんでした。
マザーズ市場の上場基準が低いおかげで、そうした上場も可能なのですが、これは日本の市場環境において諸刃の剣のようでもあります。資金調達額や企業価値から判断して米国基準ではまだシリーズBくらいのスタートアップでも、日本では上場できてしまうのです。
SPACが日本ではあまり明確な需要がないのも、こうした上場のハードルの低さがさまざまな形で影響しています。
上場という選択肢を選んだ場合、株の流動性が高くなるのは良い点です。
しかし同時に、企業としての成長を妨げてしまう可能性もあります。まだ事業成長に注力するべき企業でも、上場していると、収益性の改善を求める市場からのプレッシャーをかなり早い段階から感じてしまうことが多いからです。
また、こうした市場環境の二次的な影響として、日本に「ユニコーン」が少ない状況にもつながっていました。
日本にとっては、1000億円以上の企業価値に成長する新興企業が必ずしも少なかったわけではなく、そのポテンシャルを持つ企業の多くがユニコーンになる前に上場してしまっていたことが問題だったのです。
その後、それらが上場企業として数千億円規模の時価総額に達しても、すでに上場しているので「ユニコーン」の定義から外れてしまっています。それどころか、その時点ではもはや世間から「スタートアップ」とすら認識されてきませんでした。