想像力の欠如はデータで補完 コロナ禍における経済のイメージと現実

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異なるコロナ禍の景色が見えてくる


今度は個人の観点から見てみよう。総務省が発表している「労働力調査」の雇用者数のデータを、性別・雇用形態別に分類し、コロナ禍における増減をグラフにしたものが下の図だ。

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出所:総務省「労働力調査」のデータをもとにマネネが作成 注:季節調整値

緊急事態宣言が発出された昨年の4月から雇用者数は前年よりマイナスという状態がずっと続いている。それだけでも雇用環境が良くないということがわかるかと思うが、性別・雇用形態別に分類したことで、しわ寄せが非正規雇用にいっており、なかでも女性の非正規雇用が非常に厳しい状態にあることがわかる。

前述の日銀短観で見たように、コロナ禍においては対個人サービス業や宿泊・飲食サービス業が大きくダメージを受けているが、これらは女性の非正規雇用者が多く従事している産業でもあるため、必然的にこのような結果となってくる。

上の図のデータを、2020年という年次データとして、年収ごとに分布させたものが下の図だ。

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出所:総務省「労働力調査」のデータをもとにマネネが作成

この図からわかることは、コロナ禍においては非正規雇用者の多くが職を失っており、もともと年収が低く、おそらく貯蓄もそれほどない状態で失職しているため、失職と同時に即座に生活苦に直面しているということだ。

冒頭、現金の一律給付をすると必要のない人にまで給付されるという意見を紹介したが、その指摘は一部では正しい。しかし、本当に困窮している人たちを特定することに時間がかかってしまうと、即座に生活苦に直面した人たちを救うことができない。そういう観点から考えれば、学生たちの懸念も少しは変わるかもしれない。

自分の実感や周囲の環境からこのようなことが想像できなかったとしても、データを確認して、検討すれば火を見るよりも明らかなのだ。

警察庁が発表している月次の自殺者数を性別に分けてみると、男女ともに自殺者数が増えており、なかでも女性の自殺者数が急増していることも、そのことの裏付けとなろう。

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出所:警察庁「生活安全の確保の関する統計等」のデータを基にマネネが作成

データを確認し、検討してきたことで、コロナ禍の影響が人や視点によってバラバラであることや、現金を一律で給付する理由がわかったと思う。

最後に、株や仮想通貨が好調だという点について見ていこう。

確かに、昨年1年間は日本だけでなく海外の株式市場も好調であった。仮想通貨も過去最高値を記録しており、利益を得た投資家も多い。

非正規雇用者が職を失う一方で、正規雇用者は安定した給与をもらい続け、かつ外食や娯楽への支出も減ったことから、むしろコロナ禍でお金が増えたという人が多いのも事実だ。

野村総研が発表した富裕層へのアンケートの結果を見てみると、コロナ禍の前から格差が開いていることがわかる。純金融資産が5億円以上ある「超富裕層」や1億円以上5億円未満の「富裕層」が増えており、おそらくコロナ禍でもこの傾向は継続している。

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出所:野村総合研究所「NRI富裕層アンケート調査」のデータをもとにマネネが作成 注:純金融資産保有額。2年前比

このようにリアルな経済のデータを見てみると、自分が想像していたものとは異なるコロナ禍の景色が見えてくるのではないだろうか?

この数年で格差を拡大させ続けている資本主義社会に疑問を投げかける声もよく耳にするが、今回のコロナ禍をきっかけに、思い込みではなく、厳然たるデータを基にして、今後の世の中の在り方を考えてみて欲しいと筆者は思うのである。

連載:0歳からの「お金の話」
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文=森永康平

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