同社のアダム・アロンCEOは「たとえ株主が数百万人になっても、インベスター・コネクトを通じた関係構築の努力が続くだろう。つまるところ、彼らはAMCの所有者であり、私は彼らのために働いている」などと述べた。会社側によれば、7月29日に開催される予定の年次株主総会で投票権を持つ個人株主は約410万人を数える。
AMC株といえば、米国市場では今や「ミーム銘柄」の代表的存在だ。「ミーム銘柄」とは業績の見通しなどファンダメンタルズとは関係なく、主としてSNS上の情報を材料に売買が活発に行われる株式を指す。1月にはゲーム販売店のゲームストップ株がネット掲示板サイトへの書き込みなどを手掛かりに乱高下を演じたが、最近はAMC株がミーム銘柄の主役の座に踊り出た感がある。
AMCの業績は低迷。21年1~3月期の純損益は5億6700万ドルあまりの赤字を計上した。新型コロナウイルス感染拡大のダメージが残る。増資を行うなどして財務のテコ入れを急いでいるが、同社は20年の年次報告書で支払いの繰り延べが認められていた映画館の賃料の負担が今後、膨らむ可能性などにも言及。依然として厳しい状況が続く。
にもかかわらず、ニューヨーク市場の同社株の売買高は高水準で推移する。優待制度導入を発表した2日の市場では急騰。前日の終値32ドル台から一時、72ドル台と約2.3倍の水準にハネ上がった。信用取引の売り方の買い戻し、いわゆる「踏み上げ」を狙った動きに優待実施を好感した買い物が重なり、大幅高を演じた格好だ。
AMCの優待実施は投機的な動きを抑制し、個人投資家に株主として株式を長期保有してもらおうとの意向が働いているとみられる。米ウォール街の関係者によれば、同国の大手金融機関の調査で、年初来のゲームストップ株の急騰を機に13~17歳の約45%が投資への関心を高めているとの結果が出た。
優待はこうした若者による「カジノ感覚」での売買の対象となることを防ぐための策ともいえそう。むろん、全体の80%超を占める個人株主は映画館の来場客としても大きな魅力。コロナワクチンの接種率向上に伴う経済活動の正常化を背景にした集客回復にはずみをつけたいところだろう。
連載 : 足で稼ぐ大学教員が読む経済
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