日本の約3800の上場企業のうち、株主優待制度を導入しているのは1500社あまりと全体の4割弱に達する。もっとも、優待をめぐっては「不公平」との批判があるのも事実。特に「小口の株主を優遇した仕組み」との指摘が少なくない。保有株数の多寡にかかわらず、優待の内容が同じというケースがある。「100株以上保有する株主に自社製品を提供」などがその一例だ。
運用を任されている機関投資家の場合、現金化するなどして顧客に還元する取り決めを交わしているケースが多いが、優待の内容によっては換金も難しい。日本株市場で最も売買シェアの高い「メインプレーヤー」は外国人投資家だが、優待品を海外に送付する企業も少ないという。
一方、外国でも株主優待制度を採用している企業がまったくないわけではない。米国マイアミのクルーズ船会社、カーニバルクルーズラインは100株以上保有の株主を対象に、北米航路の6日以内のクルーズでは50ドル、欧州大陸航路だと同じく6日以内ならば40ユーロそれぞれ割り引くなどの優待を実施。
スイスに本社を構え、スキー場やホテルなどレジャー施設の運営を行うヴァイセ・アレナ・グルぺは75株以上の保有株主に対し、本人ならびに家族のリフト利用料やスノーボート、スキーなどのレンタル料を10%割り引くなどの特典を付与している。
しかし、これらはあくまでもレアケース。「優待にコストをかけるぐらいならば、利益に回すべき」というのが海外投資家の基本姿勢だ。「米国では株主資本に対する利益の最大化、すなわち、株主資本利益率(ROE)をどれだけ高めることができるかが最高経営責任者(CEO)に求められている」と楽天証券経済研究所の香川睦・チーフグローバルストラテジストは話す。
狙いは若者。株主優待を導入するAMC
こうした中で株主優待に打って出た米国企業がある。映画館運営のAMCエンターテインメント・ホールディングスだ。AMCは世界14カ国で950の劇場と1万543のスクリーンを運営。米国では590劇場、7668スクリーンを展開する業界最大手だ(2020年12月末時点)。
導入したのは、「AMCインベスター・コネクト」と名付けた優待プログラムである。手始めに今年夏、映画館でバケツサイズのポップコーンを無料で提供。さらに、グッズの割引サービスや特別上映会への招待などを予定している。プレスリリースで会社側は「今年の3月11日時点で80%以上を占める個人株主と直接コミュニケーションを取るための革新的な取り組み」と説明している。