香港で「反政府的な映画」が上映禁止、中国が締め付け強化

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香港政府は6月11日、映画の検閲規則を改正し、「国家の安全を脅かす可能性がある映画」を禁止する中国本土と同様のルールを導入することを発表した。これは、映画文化が盛んで、外国映画に対する規制が比較的少なかった香港の伝統を打ち破る動きだ。

香港政府は11日の声明で、「国家の安全を危険にさらす犯罪に相当する行為」を表現する映画を上映禁止にすると述べた。新規則はさらに、「中国の主権や統一、領土の保全を守る」という香港人の「共通の責任」に影響を与える行為を確実に防止、抑制するよう指示している。

中国本土で映画を厳しく検閲する国家電影局とは異なり、香港ではこれまで欧米と同様なレーティングシステムが採用され、性的・暴力的な内容の規制はあるが、政治的な内容には踏み込んでいなかった。

新しいルールは、香港の映画館及び公共の場所で上映されるあらゆる映画に適用される。この動きは、反政府的な意見を取り締まり、香港がこれまで享受してきた自由を奪おうとする中国政府の最新の取り組みだ。

検閲の強化は、ハリウッド映画を含む外国映画の香港での公開に大きな影響を与える模様だ。中国本土では、外国映画の公開が年間40本程度に制限されているが、香港にはそのような制限がなく、ハリウッドにとって重要なアジア市場となってきた。

非営利団体PEN Americaは昨年のレポートで、世界第2位の興行収入を誇る中国の映画市場の検閲制度が、ハリウッドの映画業界に大きな影響を与えていると述べていた。米国の映画会社の幹部は、中国の意向に沿うよう自主的な検閲を行い、キャスティングや内容、セリフなどを修正していると指摘された。

ドキュメンタリー映画に打撃


今回の香港政府の動きは、香港の民主化活動家が映画を反体制の表現のためのツールとして用いていることに、中国政府が不快感を募らせた結果だと考えられる。3月には、香港の抗議デモを描いたドキュメンタリー映画「Inside the Red Brick Wall(赤レンガの壁の中で)」の劇場公開が直前になって中止された。

さらに4月には、トニー・レオンとアーロン・クォックが共演した警察の汚職を描いた香港映画「Where the Wind Blows(風再起時)」の香港映画際での上映がキャンセルされた。その理由は「技術的問題」とされたが、これは中国政府の検閲を示す定番のフレーズだ。

また、香港の大手放送局のTVBは、今年のアカデミー賞授賞式の放送を拒否した。これは、香港の民主化運動を題材にしたドキュメンタリー映画「Do Not Split(不割席)」が、短編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされたことを理由に、中国政府が今年のイベントの国内でのオンエア中止を求めた結果だ。

中国は昨年6月、香港への支配力を強めるために、香港当局に反体制派グループの取り締まり権限を与える香港国家安全維持法(国安法)を導入し、秘密警察と国家安全会議を設置した。これにより、長年アジアの金融ハブとして栄えてきた香港は、1997年に英国から返還されて以来、最悪の危機に陥っている。

映画「Do Not Split」の監督であるアンダース・ハマーは、AFPの取材に、「新たな検閲によって、香港の映画制作者はアートを通じ、権力に異議を唱えることがさらに困難になるだろう」と述べている。「民主化運動が始まって2年が経つが、中国政府がまた新たな手段で、香港市民の自由を奪おうとしていることに落胆している」とハマーは語っている。

編集=上田裕資

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