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朝日新聞外交専門記者


日本は5月のG7外相会議の際には、日韓外相会談に応じた。これは、「関係がいくら悪くても、外務省レベルでのパイプは維持すべきだ」という茂木敏充外相らの意向が働いた結果だったという。逆に韓国側はこの成果に気を良くしたのか、G7首脳会議前のブリーフィングでも、「コーンウォールの会場は狭いので、pull aside meetingの可能性は十分残されている」と韓国記者団に説明していた。

この前のめりの気持ちがそのまま、日本政府が説明した「文在寅大統領から菅首相に歩み寄ってきた」という状況につながった。

しかし、別の日本政府関係者によれば、菅首相の韓国に対する姿勢は冷め切ったままだという。6月7日には、ソウル中央地裁が、日本企業への損害賠償を求めた元徴用工らの訴えを却下する判決を下した。ただ、この判決を受けて、韓国政府が日本企業に損害を与えない措置に向けて動き出す兆候は依然ないという。

この関係者は「(来年5月に任期が切れる)文在寅政権との間での関係改善は難しいのではないか」と語る。だから、日本もことさらに「あいさつにやってきたのは文氏で、日本から働きかけたものではない」と強調したかったのだろう。

韓国の聯合ニュースは14日、日韓が簡単な形での首脳会談で合意していたが、日本側が一方的にキャンセルしたと伝えた。だが、日本政府関係者の1人は「報道された事実はない」と否定した。

実際、韓国大統領府高官は9日に行った韓国記者団に対するブリーフィングで「現在、(日韓や日米韓首脳会談について)協議している日程はない」と説明。菅首相は10日夜に日本を出発したが、韓国語の通訳は随行しなかった。9日から10日にかけての短い時間に事態が二転三転したとは考えにくい。実際、14日現在、韓国政府が日本が求めている「解決策」を提示した事実もない。

解決策もないのに、それでも文在寅政権が、日韓が対話している雰囲気を演出するのは、バイデン米政権からの強い圧力があるからだろう、というのが日本政府の分析だ。

日本も韓国もこの間、米政府には様々な働きかけをしてきた。韓国の鄭義溶外相は2月18日の国会報告で、険悪な状態に陥っている日韓関係改善の仲裁役として米国の役割に期待する考えを示した。だが、日本は米国に対して、水面下で「韓国の主張を認めれば、日韓請求権協定が破壊される。それは戦後秩序の破壊にもつながる。

この問題で、米国が仲介するというなら、日本の立場を支持すること以外にない。折衷案を出すというなら、仲裁しないでほしい」と働きかけていた。米国も理解を示しているという。

文政権は最大の懸案事項である南北関係改善のため、良好な米韓関係の維持に腐心している。日本からは「解決策の提示があるまで動かない」と言われ、米国からも仲裁役を事実上断られ、最後に「対話をしている」演出だけが、外交手段として残ったというのが現状のようだ。

文在寅大統領は13日、フェイスブックに「菅首相との初対面は、韓日関係で新たなスタートとなり得る貴重な時間だったが、会談に結びつかずに残念に思う」と書き込んだ。現在、韓国政府は来月開幕する東京夏季五輪の開会式に合わせて文大統領が訪日する可能性も残されているとし、事務的な準備作業を進めている。ただ、G7の結果を見る限り、文大統領が訪日する可能性は限りなく小さくなったと言えそうだ。

韓国がさらに日韓関係の改善への道に進むためには、6月7日のソウル中央地裁の判決に沿った政策の軌道修正を行うしかない。ただ、悲しいことだが、文在寅政権による軌道修正について、日本側に期待する声が全くあがっていないのも現実なのだ。

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文=牧野愛博

韓国
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