ビジネス

2021.06.18

街づくりの挫折と成功の重要な分かれ目──機能するスマートシティ

photo by ivanastar iStock


都市の課題はレイヤーごとに異なる


グリーンフィールドでの開発においても、不動産デベロッパーには地域行政から多くの要件が出されます。開発の許認可を持つのは自治体であるため、不動産開発は行政や市民と手を取り合いながら「まちの課題解決」や「街そのものの発展と人々の暮らしのアップデート」を同時に進める関係の構築が不可欠です。

先述のトロント市の事例でも、行政はSidewalk Labに対して「手頃な住宅の提供」を必須要件としていました。先進的な大企業がオフィスを構えると、高所得層の市民が増えますが、地域の生活コスト向上や住宅費の高騰を招きます。行政はそうした地価上昇によって、低所得層が生活の場を失ってしまう可能性を防ぐ必要がありました。

直接・間接を問わず、都市は市民や地域企業に対して多層的なサービスを提供する構造であるため、スマートシティもまたそれに準じた設計でなければなりません。都市が抱える課題に対して、それらの層(レイヤー)ごとに必要な取り組みを定義し、コミュニケーションやデータ統合によって横断的な解決を目指す取り組みでなければならないといえます。

都市機能の構造を示した図
出典:アクセンチュア

スマートシティは、二元論では語れない


ここまでスマートシティの姿としてグリーンフィールドとブラウンフィールドがあり、大都市と地方都市では課題が異なると説明してきました。しかし世界中の都市がそうした二元論のどちらか一方にだけ当てはまると考えてしまうのは短絡的です。スマートシティの実践的取り組みを二元論で考えてしまうと現実を見誤ります。

実際に大都市と地方都市の間には、なだらかなグラデーションがあることは誰の目にも明らかです。スマートシティの2つのタイプにおいても同様です。ブラウンフィールドの中にも部分的に地域の再開発をしたり新しく街づくりをしたりすることがあります。グリーンフィールドも周辺はブラウンフィールドであり、周辺含めた地域全体を捉えて開発する必要があります。さらに、一度建設された都市も、日々進化するデジタル技術を適用し、スマートシティでい続けることを考えると、自ずとその方法論はブラウンフィールド的なものになります。

拡大してきたスマートシティの定義とデジタル化社会


スマートシティは気候変動への対応や都市全体の省エネがきっかけで始まったものの、その後、以下のような、市民生活にかかわる様々な領域に広がってきました。
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文=藤井篤之(アクセンチュア)

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