世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版

Matthias Breschanマティアス・ブレシャン(ロンジンCEO)。オーストリア出身。IT関連企業を経て、1996年にスウォッチグループに入社。スウォッチテレコムを担当していた。2005年より同グループの執行役員に。ハミルトンCEO、ラドーCEOを経て、2020年7月にロンジンのCEOに就任した。

長く現場を率いてきたCEOが退任すると、大きな変革期がやってくる。しかしロンジンは、新CEOとともに歴史と伝統をより深く語りかける。


歴史と伝統を重んじるスイス時計業界には、何人かの名物経営者がいる。長期にわたって同じメンバーがかじ取りを行うことは、製品の開発やストラテジーの構築、あるいは伝統の継承などの面で大きなメリットがある。特にそのメリットを享受していたのが、1832年に創業した老舗時計ブランドの「ロンジン」だ。

ロンジンはスイスのサンティミエに時計工房をつくり、現在までその場所で時計をつくり続けている。そのため貴重な資料や金型、設計図や資料が散逸せずに残されている。

またスタッフもブランドを知り尽くしたベテランが多い。ロンジンでは過去の傑作を復刻する「ヘリテージ」コレクションが人気なのだが、そういった戦略が可能なのは、歴史を知るスタッフによる一貫した継続性があるからだ。


オーギュスト・アガシが1832年に創立した時計会社をルーツとするロンジン。その名称は、スイスのサンティミエを流れるスズ川のレ・ロンジンという岸辺の牧草地に時計工場を建てたことに由来する。現在も同じ場所に会社と工場がある。

しかし継続性の強さは、時には弱点になることもある。世代交代が上手にいかないと一気にすべてが瓦解する恐れもあるだろう。ロンジンでは、2020年にCEOが交代した。

現CEOのマティアス・ブレシャンは、ラドーで9年間、ハミルトンで7年間もCEOを務めてきた大物だが、なにせ前任者であるウォルター・フォン・カネルは32年間もCEOとしてロンジンを率いてきた人物。そんな大立者の後を引き継ぐのは、相当なプレッシャーだろう。

「カネル氏から学んだのは、ブランドへの敬意をもつということでした。実際にサンティミエのマニュファクチュルを案内してもらいましたが、特に感銘を受けたのが、『ヘリテージデパ-トメント』というアーカイブ部門。1867年以降につくられた時計をすべてシリアルナンバーで管理しており、不具合があった時計の修理を可能にしています。これは途切れることなく時計をつくってきた歴史をもつブランドだからできることです。ロンジンの素晴らしい時計のため、そして顧客のためにブランドへの敬意をもち、歴史を継承していかなければいけないのだと、あらためて思いました」

2020年は新型コロナウイルスの影響で全世界的に不安な経済状況だったが、それでもロンジンの業績は前年比でも、ほぼ遜色はなかったという。それはなぜか?

「ロンジンというブランドの健全さが浮き彫りになった結果でしょう。大切なのはバランスです。スポーツとクラシック、メンズとレディスなど、それぞれの層にアプローチする製品を提供することに成功している。そもそもロンジンは、短期的な戦略は立てません。今後20年を俯瞰して長期的なロードマップを描くことができるのも、ロンジンの強みでしょう」

長期的展望に立ち、歴史と伝統を生かして、この先も廃れない価値のある時計をつくる。そういう信念は、今年の新作時計「ロンジン レジェンドダイバー」からも見えてくる。

1950年代末にデビューしたロンジン初のダイバーズウォッチを、2007年に復刻させたモデルで、あっという間に人気になり、ロンジンの歴史と伝統を語るモデルとしてすっかり定着している。これを新CEOが再びピックアップしたのはなぜなのか?

 
1959年に製作された「ロンジン スーパーコンプレッサー ダイバーズウォッチ」。ケース径は42㎜で、防水性能は120m。当時、故障の原因となっていたベゼルを、内側に配置するという画期的な構造を考案した。

 
現代の「ロンジン レジェンドダイバー」は、300m防水の本格派ダイバーズウォッチだが、ヘリテージなルックスなので腕元で綺麗に主張するアクセントになる。

text and edit by Tetsuo Shinoda

ロンジン

PICK UP

あなたにおすすめ