若き帝国ホテル東京料理長が目指す、ラグジュアリーとサステナブルの共存

帝国ホテル第14代東京料理長 杉本 雄


デセールのパン・ペルデュつまり、フレンチトーストはその最たるものであった。“ペルデュ”とは、フランス語で“失われた”という意味で、硬くなり、食べ頃を失ったパンをどうにか美味しく食べようとして卵液につけて焼いたのが始まりの料理だ。

実は、ペストリー部門では、一日約40種ものパンを焼くため、レシピ上どうしても生地が残ってしまう。それらを少しずつ練り合わせて、一つのパンを作り、フレンチトーストにしたのがこのデセールだ。フランス料理を学ぶうちに自然に身に着いたこの考え方が、今の時代感の中で、うまくスライドされて現在のSDGsに生かされているように思う。

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Du pain au pain 〜パンからパンへ〜「みかんのフレンチトースト」

ホテルだからこそできること


最後にコーヒーの話になった。現在はまだホテル内2店舗所でしか提供していないが、近い将来、東京の直営レストランのコーヒーをすべてレインフォレスト・アライアンス認証農園産のものに切り替えたいと考えているという。その認証は、化学肥料の使用を削減し、野生生物を保護し、適切な労働条件下で育てられたコーヒーだけが取得することができるものだ。ホテル業界でこのコーヒーを取り扱ったのは初めてだという。

「昔ながらに手と時間をかけて育てられたコーヒーは美味しいんです。手間隙かけるということはそこに雇用が生まれる。自然を守ると同時に、地域社会全体が恩恵を受けるコーヒーを使用することは、まさにSDGsの考え方に即していると思います」と杉本さんは言う。

1杯のコーヒーとともに優雅な時間を過ごしながら、レインフォレスト認証のことを知り、一人一人が地球環境の課題を考えるきっかけとなれば、こんなに有意義なことはないだろう。これを、個人店が単一で発信するのと、一日、何千人の人に提供するであろう帝国ホテルで実践するのとでは、あたりまえだが、発信力が全く違う。それがブランド力というものなのである。

料理にしろ、コーヒーにしろ、こうした“意味のあることで、クオリティの高いもの”を、積極的に提供し、それを効果的に伝えていくこと。これこそが、ラグジュアリーとサステナブルの共存の一つの解決策であり、模索すべき道なのではないだろうか。

連載:シェフが繋ぐ食の未来
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文=小松宏子

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