若き帝国ホテル東京料理長が目指す、ラグジュアリーとサステナブルの共存

帝国ホテル第14代東京料理長 杉本 雄

ラグジュアリーとサステナブルを両立させる。130年の歴史を持つ帝国ホテルが、今、真剣に取り組んでいることである。

実は、帝国ホテルの環境問題に対する取り組みはとても早く、2001年には「環境委員会」が発足し、ホテル全体の環境的な無駄を見直すべく様々な視点から取り組みが進められてきた。2020年4月には、SDGsに積極的に取り組む「サステナビリティ推進委員会」と名称を改め、フードロス対策やプラスチックゴミの削減、生ごみのリサイクル、エネルギー使用量やCO2削減を目指している。

ダイニングにおけるSDGs、この壮大なテーマの陣頭指揮を執るのが、若き東京料理長の杉本 雄さんだ。一度帝国ホテルに入社するも、2004年に退社した杉本さんは、13年間フランスを中心に欧州で研鑽を積む。その間、フランス料理界の重鎮、ヤニック・アレノやアラン・デュカスのもとで腕を磨き、シェフを任されるまでになった。

2017年、古巣である帝国ホテルに料理長候補の一人として呼び戻され、翌年、38歳で東京総料理長に就任。14代目となる東京料理長の中でも、異例の若さでの抜擢となった。伝統の中にも新風を吹き込んでいきたい、そんなホテル側の願いが込められていたのであろう。現在は、特定の店舗は持たず、直営のレストラン、宴会、外販調理部門などの総責任者として、メニューの創作や新企画の発案・実施など幅広く統括している。


魚の骨から取ったブイヨンを使った「鱈のコンフィ」

「売り切れ」もアリかもしれない


杉本さんが取り組むSDGsの中でも最も目に見えやすい課題が、フードロスの問題だ。直営店舗だけで8つのレストラン&バー、ラウンジがある帝国ホテル東京では、想像をはるかに超える食材が納品され、使用され、また、廃棄されていく。フードロスがどれだけ大きな問題であるかは想像に難くない。

そんな中で、まず実行したのが、行列のできる人気のバイキングレストラン「インペリアルバイキング サール」を、コロナ禍を機に、オーダー式のバイキングスタイルに変えたことだ。ずらりと料理が並ぶビュッフェ台をやめ、フードディスプレイは最小限にし、テーブルにタブレットを配して各々が食べたいものを頼むスタイルに変更した。これでフードロスが劇的に減ったという。

「フードロスに関しては、まだまだできることがあります。例えば、これまでホテルでは御法度とされてきた“売り切れ”を取り入れていくというのもありだと思っています。旬の食材を仕入れ、それを使い切ったら、堂々と『売り切れました』とメニューに表記する。それは、食材を余すことなく使い切った証でもあるわけですから。

これまで、ホテル業界では安定供給が常識とされ、メニューにのっているものが売り切れるのは許されないことでした。でも、帝国ホテルのように、業界を牽引しているブランドが行えば、それがスタンダードになっていくということも大いにあり得る。そうした発信力こそ、トップブランドの強みであり、使命であると思うのです」
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文=小松宏子

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