日本酒シーンを変革した「No.6」の10年を祝う

Forbes JAPAN本誌で連載中の『美酒のある風景』。今回は6月号(4月24日発売)より、「No.6」をご紹介。きょうかい酵母のなかでも最も古い6号酵母を使用し、全量秋田県産の酒米を使った1本だ。


薄桃色のボトルに浮かぶのは少女。うつむいている顔の表情は窺えず、背を丸めた姿が少々アンニュイな様子だが、これはワイン? 否、こう見えてこのボトルは日本酒。それも、近年絶大な人気を得ている「No.6」だ。

「No.6」といえば6のひと文字をシンボリックにデザインしたボトルがよく知られているのだが、このポップなデザインは「No.6」の10周年を記念し、6人のクリエイターとコラボする限定ボトルコレクション。第1弾として今年3月に発売されたのが、この少女を描いた新進気鋭のイラストレーター、ダイスケリチャードによるボトルというわけだ。

「No.6」はちょうど10年前の2011年、秋田県秋田市の酒蔵「新政酒造」で生まれた。それまで、日本酒には和名の商品名が墨痕あざやかに描かれるのが一般的なイメージだったが、「No.6」はいち早く、その既成概念を打ち破り、例えば外国人が見てもすぐわかるグローバルなデザイン採用の先駆者となった。と書くと、中身も最先端のテクノロジーを駆使しているように思われがちだが、そうではない。

現在使われているきょうかい酵母(日本醸造協会が頒布している日本酒や焼酎用酵母)のなかでも最も古い6号酵母を使用し、全量秋田県産の酒米を使う純米酒だけを製造。それも伝統的なきもとづくりで、いまでは製造する職人を確保することも難しい木桶での発酵など、オーセンティックな製法にこだわっている。

この日本酒づくりの原点に回帰したハイスペックな酒で現代を表現するという姿勢が支持され、フレンチや中華の “予約のとれない”高級店でもオンリストされるなど、日本酒市場の拡大に一役買っている酒なのだ。

「『No.6』は日本酒が本来もっていた魅力を掘り起こし、新しい価値観を与えるという点でルネサンス的な側面をもっていると思います。その挑戦し続けていく姿勢に、同じつくり手として共感しています」と語るのは、ミシュラン三ツ星の名店「レフェルヴェソンス」の生江史伸シェフだ。

ほぼ同時期、2020年に10周年を迎えたという同店では、通常で6杯のアルコールペアリングのなかで1、2杯の日本酒を提供しているという。温かい魚の料理に合わせて、よく冷やした「No.6」をひと口……だしの効いたソースの旨味がキュッと引き締められ、レモンの香りとともにふわりと花開くよう。ボトルに描かれた少女がうごめき、ムクリと起きだしたような感覚を得た。



No.6 ダイスケリチャード type
容量|720ml
品種|12度
価格|4800円(税込小売価格)
問い合わせ|新政酒造
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photographs by Jun Hasegawa | text and edit by Miyako Akiyama

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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