西武園ゆうえんちがリニューアル 「古さ」を逆手に昭和レトロを演出

西武園ゆうえんちは、開業70周年を期に5月19日リニューアルオープンした

「坊っちゃん、その帽子かっこいいなぁ!どこで買ったんだい?」と警察官が目の前を歩く少年に声をかけ、楽しくお喋りをしている。

「寄ってらっしゃい!見てらっしゃい!」という声に振り返ると、先ほど通り過ぎた八百屋の店先で、突然、叩き売りのパフォーマンスがはじまった。少し顔を上げると、立ち並ぶ建物の2階の窓には温かな明かりが灯り、軒先には洗濯物や干し柿がぶら下がっている。

まるで昭和30年代の町にタイムスリップしてしまったような光景だ──。

埼玉県所沢市にある西武園ゆうえんちは、開業70周年を期に5月19日リニューアルオープンした。コンセプトは「心あたたまる幸福感」だ。

1960年代の商店街を再現した「夕日の丘商店街」や、大型ライドアトラクションが注目を集める「ゴジラ・ザ・ライド」、手塚治虫氏の人気キャラクターである「ジャングル大帝」や「鉄腕アトム」とコラボしたファミリーエリア「レッツゴー!レオランド」が目玉だ。

特に話題になっているのが「夕日の丘商店街」。当時の暮らす人々の生活が感じられる、懐かしく情緒のある風景が再現されている。オープン直後からファミリー層を中心に人気を集め、スパゲッティ・ナポレターナなど昭和の料理も味わえる喫茶店「喫茶ビクトリヤ」は1時間以上の行列もできるほどの盛況だ。

今回のリニューアル・プロジェクトを手掛けた1人である、西武園ゆうえんちの髙橋亜利マーケティング課長に、狙いと反響を聞いた。

ネガティブなイメージを逆手にとる


リニューアルにあたり、まず西武園ゆうえんちの現状を把握するため消費者インタビューを実施したという。そこから抽出されたイメージは「古い」「寂れている」「特徴がない」など。決してポジティブなイメージではなかったという。通常のマーケティングであれば、これをどう払拭して、新しいイメージに刷新できるかを考えるのが常識であろう。

ただ、西武園ゆうえんちが大規模リニューアルにかけた予算は100億円。公表ベースだが、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)にこの3月に新設された「スーパー・ニンテンドー・ワールド」は600億円、東京ディズニーランドのファンタジーランドのリニューアルは3500億円だ。

それを考えれば、西武園ゆうえんちの予算が決して潤沢ではないことは想像できるだろう。そのため、現存のアトラクションを活かしつつ、スタッフで知恵を出しあうことが求められた。

「これまでの西武園ゆうえんちには、特徴となる『顔』がありませんでした。今回のリニューアルでは、新しい『顔』をつくることにチャレンジしました。コンセプトは『心あたたまる幸福感に包まれる世界』。お客様に幸福感を届ける手法として、マーケティング調査などから得られた結果をもとに、『懐かしさ』をキーワードに検討しました。

長年愛されてきた歴史を大事にしながら園内全体をフルリニューアルするため、そのままアトラクションを生かすには、“古いことは良いことだ”と魅力を感じるような工夫をするしかない。それで、浮かび上がってきたのが、ただ昭和の世界を再現するだけでなく、当時の熱気や活気が溢れ、人との触れ合いが感じられる『生きた昭和の世界』でした。これなら、西武園ゆうえんちの70年の歴史と原点を大事にしながら、お客様に再び感動を届けることができると一同確信しました」(髙橋課長)

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「昭和レトロ」な夕日の丘商店街の町並み
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文=内田有映 写真提供=西武園ゆうえんち

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