西武園ゆうえんちがリニューアル 「古さ」を逆手に昭和レトロを演出

西武園ゆうえんちは、開業70周年を期に5月19日リニューアルオープンした


では、どうしたら「昭和」や「懐かしさ」を感じてもらえるか。まず手掛けたのが、エントランスの導線設計と、シンボルとして懐かしさのある商店街を設置することだったという。

これまで複数あった入場口を、リニューアルのタイミングで、西武鉄道山口線の西武園ゆうえんち駅の1箇所に絞った。そこに昭和30年代の街並みをモチーフにした「夕日の丘商店街」を設置。全長130m、30店舗の店が並ぶレトロな商店街を通って園内に入場するようにした。

商店街には、八百屋、魚屋、喫茶店、銭湯などが再現されており、ノスタルジックな光景が楽しめる。まさにタイムスリップして、時間のトンネルを通るようなイメージで、「古い」イメージを「懐かしい」感覚に変えた。そうすることで、リニューアル前からある観覧車やメリーゴーランドなどのアトラクションも魅力的に見えてくるという仕掛けだ。

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最初に通る「夕日の丘商店街」でノスタルジーの魔法をかける

「生きた昭和」を演出するフレンズクルー


「夕日の丘商店街」をライブ感のある昭和の町にするために、ひと役買っているのが「ヒト」の存在だ。コロナ禍で「ヒト」とのふれあいが少なくなったことで、リアルなコミュニケーションの大切さに気づいた人たちも多いだろう。

西武園ゆうえんちでは「生きた昭和」を体感してもらうため、ちょっとおせっかいかもしれないが、温かみのあるコミュニケーションの演出にも力を入れた。その要になっているのが「フレンズクルー」と呼ばれるヒトたちだ。警察官や八百屋の店主など、商店街を歩いていると、冒頭のように頻繁に声をかけられる。まるでこの世界の住人になったような気分が味わえ、昭和の雰囲気を体感することができるのだ。

「喫茶店や食堂では昔さながらの食事ができたり、射的場や遊技場では大人だけでなく、小さなお子様でも楽しめます。また本物さながらの細かい演出や小道具もあります。例えば、商店街の2階を見上げると靴下やタオルが干してあったり、夕暮れ時には2階の窓に明かりが灯ったり、店のドアにはテレビ局の受信標シールが貼ってあったり。当時の生活を再現するため、誰も気づかないようなところにまで、こだわってみました」(高橋課長)

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警察と泥棒に扮したフレンズクルーが商店街でパフォーマンスを繰り広げる

こだわりの極め付けは「西武園通貨」の導入だ。「ジャングル大帝」のレオのイラストがあしらわれた紙幣を導入し、現地ではこれを使って食事や買物を楽しむようにしてある。紙幣の紙質や印刷にも昭和の感じが出せる会社を求めて、担当者は奔走したという。

またガイドマップとなる「園内地圖」は新聞のデザインを模している。漢字の字体、言葉の選び方、レイアウトなど昭和さながらのデザインだ。細部に隠された秘密もあるというが、是非、実物を見て確かめてほしい。

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オリジナル通貨「西武園通貨」と「園内地圖」にも昭和のこだわりが

コロナ禍でのリニューアルオープンとなったが、他のテーマパークにはない個性的なコンセプトが早速話題となり、想像以上に客足も伸びているといいう。

「昭和レトロ」な光景が楽しめる西武園ゆうえんち。不思議なことに昭和の時代を知らない若者や子どもたちにも、懐かしいという感情を抱く人たちが多いようだ。これまでは「古い」イメージだったものが、令和の時代となり、再び、めずらしく新しいものとして注目されているのかもしれない。

連載:「遊び」で変わる地域とくらし
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文=内田有映 写真提供=西武園ゆうえんち

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