ビジネス

2021.06.10

経営の伴走者として新たな理想像──GCP Xチームヘッド 小野壮彦

DX JAPAN代表 植野大輔(左)とグロービス・キャピタル・パートナーズ「GCP X」ヘッド 小野壮彦(右)




植野:なんで辞めちゃったんです?

小野:衝突したんです、三木谷さんと。利益を出す話と、チームを強くする話を同時に求められ、全部は無理だと主張したんです。健全経営で成長を待つか、投資して強くなってから儲けるかなのに、三木谷さんは「どっちかでなく、今すべて取るんだ」という感じで。ビジネスでオーナーと擦り合わせなきゃいけないポイントの一つは、こうした「時間軸」ですね。

植野:時間軸は、オーナー経営者が描ける特権ですから。目指す姿や戦略が一緒でも、半年でやるのか、3年かけるのかで全然違います。

小野:大抵、彼らの判断は正しい。でも、ショートでやるか、それともロングタームでやるか擦り合わせが必要なことがある。ヴィッセルでは自分が破裂して辞めました。そのことを反省して、前澤さんとは時間軸でケンカしなかった。ただ、ZOZOSUIT(*3)の事業では「もっと時間をかけてやりましょう」と強く言えなかったことを後悔しています。減速するのは勇気がいる。やっぱりオーナー経営者は迫力があります。それでも議論を挑むべきときはあると思います。

*3 2017年末にZOZOが発表した3D計測用ボディスーツ。申し込み者に無料で配布する予定だったが、量産体制や全身採寸の精度に課題を残したままのスタートで、大きく仕様変更した後に事業終了。20年10月、3Dマーカー数を50倍に増やしたZOZO SUIT 2を発表し、事業パートナーを募った。

植野:大企業の経営者でもサラリーマン社長の場合、自分に与えられた4年や6年といった時間軸にしか関与できない。それに対して、孫(正義)さんなどは100年のレンジで経営を考えています。

小野:オーナー経営者には、そうした常人離れした思考がある。僕はデザイン家電のamadanaにプロ経営者として参画し、上場を目指したのですが挫折しました。世の中にはドリーマー寄りの人とリアリスト寄りの人、2つのタイプがいます。30代前半の僕はドリーマー的な部分が大きく、合理的なプロ経営者になれきれなかった。自分のそんな部分に気づいて、経営者を支える側に回ろうと思いました。

植野:小野さんは、自分がキングになろうともがき苦しみ、さまざまな経験を積んだ結果、キングを支える側に行ったのですね。

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「小野さんには、小学生向けのサッカー教室を運営するもう一つの顔がある。成功と挫折、両方を経験して突き進むドリーマーです」

スタートアップの新世界


小野:植野さんは、三菱商事からBCGに行き、さらにファミリーマートへ移って加速成長された印象です。商社時代から視座が上がり、体験や経験を昇華する力が付いたのでは。

植野:BCGでも「視座を上げろ」とよく言われます。結局、その近道は経営者と接する時間の累積。僕は澤田貴司さん(*4)に喰らいついて、視座を上げようと考えました。コンビニも成熟期に入り、社会的なインフラとして責任が求められていた。そういった中で変革を担ったのと、デジタルが思い切り入ってきた。さらには自部署の早期退職なども手がけました。

*4 ファミリーマート代表取締役社長。1957年、石川県生まれ。上智大学理工学部物理学科卒業、伊藤忠商事入社。ファーストリテイリング副社長、コールド・ストーン・クリーマリー・ジャパン代表取締役会長、企業経営支援会社リヴァンプ設立などを経て現職。2021年3月、ファミリーマート代表取締役副会長に就任予定。
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文=神吉弘邦 写真=川合穂波

この記事は 「Forbes JAPAN No.080 2021年4月号(2021/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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