ビジネス

2021.06.10

経営の伴走者として新たな理想像──GCP Xチームヘッド 小野壮彦

DX JAPAN代表 植野大輔(左)とグロービス・キャピタル・パートナーズ「GCP X」ヘッド 小野壮彦(右)


植野:CxO人材という視点で見渡すと、近年はゴールドマン・サックスなど投資銀行出身のCFOやリクルート出身者が多く、商社はわずか。

小野:リクルート出身者がいると組織が締まるのですが、そこまでのグローバル人材はいない。商社出身者が入ればグローバル化も加速できるはずなのに、つまらないエリート意識があるんじゃないですか。

植野:僕自身は高校中退で、大検を受けて早稲田に入るまで2年かかったからエリート意識はなく、むしろピュアな雑草魂があります。

小野:中退はエリートマークですよ。やさぐれちゃう人もいるけど、社会で活躍する人は多い。僕はエグゼクティブサーチにいた10年間でのべ5000人にインタビューしましたが、ときどき中退の人がいました。その時点で経歴はマル。「絶対、この人は強い」と。そうやって印象に残る人はいますが、申し訳ないけど全然覚えていない人もいる。

植野:その差は、覚悟?

小野:いや、「匂い立つ香り」かな。色みたいなもの。アイデンティティの問題ですね。一流企業である程度のポジションに上がっても、色のない人が多かった。その人たちは、まだ他人の人生を生きているわけです。自分自身がないので、人としての物語が迫力をもって出てこない。海外の人にインタビューすると、匂いや色が出てくるケースが多いです。いつ会社からクビにされるかわからないから「ここでのキャリアではこれをやって自分の価値を高める」みたいな設計を自分でしていますね。

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経営者とCxOが衝突するポイント


植野:楽天とヴィッセル神戸での「参謀」時代を聞かせてください。

小野:僕は楽天に自分の会社を買収されました。アクセンチュアを辞めた後に27歳で起業したのです。そこから当時250人ぐらいのベンチャーだった楽天の社員になりました。社長室に入って三木谷さんと仕事したけど、元社長が他の社長に仕えても、やる気が出ないわけです。「2年間は辞めない」というロックアップが買収条件だったので、最初はボーッとしていました。でも、腹をくくって「きっかり2年で辞める」と決めたら仕事が楽しくなった。

これは社史に残るプロジェクトですが、僕がリーダーシップを取り、楽天市場に従量課金制度を導入したんです(2002年)。ある意味では値上げ。でも自分は辞めるつもりなのでガンガンやれた。最後まで慎重だった三木谷さんも、最後は深夜のラーメン屋で「店舗さんが3分の1に減ってもやり直せばいいよな」と言ってくれて。

植野:やっぱり退路を断ったから。

小野:エネルギーが出る。すると、経営者と勝負できるんです。よく変革の精神が足りないと日本企業は言われますが、ジョブセキュリティが保証された人は闘う動機がないでしょう。

植野:トランスフォーメーションなんて、本音では組織の中の人は誰もやりたくない。

小野:ちょうど2年経った日に辞めてイタリアへ行き、音楽やファッションに触れ、おいしいワインを飲み、毎週サッカーを見ましたね。日本に帰ると「ヴィッセルに来ないか?」と三木谷さんに誘っていただいたんです。取締役ですが、社長は三木谷さんなので不在。スーツ組とジャージ組の両方を何でもやっていました。夢みたいな2年半で最高に楽しかったな。
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文=神吉弘邦 写真=川合穂波

この記事は 「Forbes JAPAN No.080 2021年4月号(2021/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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