世界初「国家電池戦略」が生まれた背景
フィンランドが世界に先駆けて「国家電池戦略」を打ち出したものの、あくまで一国だけでなく、EUや国際企業など多様なステークホルダーと連携して、サステナブルなバッテリーバリューチェーンを構築することが目標だと、Business Finlandのイルカ氏は強調する。
Business Finland スマートモビリティと電池部門責任者、イルカ・ホマネン氏
そもそも、この戦略で対象となる電池は何に使われる想定のものだろうか。イルカ氏は3つの目的を挙げた。
「まず、CO2の厳しい規制が進むなか、一般消費者においてもEVの台数が増えており、それがこの戦略策定の最も強いドライバーになっています。第二に、再生可能エネルギーが増えるなか、蓄電ニーズが高まっているということ。第三に、フィンランドは鉱山や岩盤掘削など重機の電動化にも強みがあるということです」
Sandvikは、2021年末までにすべての地下掘削に対応した電動機器の新製品群を導入予定だ
特に鉱山機械の電動化については、地下の排気ガスをなくし、換気や燃料費を削減しながら鉱山経営の持続性を高めるため期待されている。国内には、鉱山・岩盤掘削などを手掛ける企業「Sandvik」や「Normet」などのリーディングカンパニーがあるという。
一方、フィンランドでもEVマーケットはまだ小さく、年間の販売台数はEVが約1万台、ハイブリッド車は約4万台規模だが、気候変動対策として2030年までに計35万台になると予測され、バッテリーの技術開発やソリューションが求められている。またEVの電池の原料のひとつ、レアメタルの高騰などにより、世界の自動車メーカーも電池の調達コストが高いという課題に悩まされている。
イルカ氏は「この点は大きな疑問符がつくところです。需要が急成長することで原材料の高騰と下落が続いており、バリューチェーン側が追いついていないという課題がありますが、徐々に落ち着いてくるでしょう」と予測する。燃料電池の技術革新や、フィンランドが進める電池のリサイクルシステムが構築されれば、課題解決に重要な役割を果たせると見込んでいる。
バッテリーの分野では、ヨーロッパだけでなく、中国、韓国、日本を中心としたアジアの企業も競合相手となるが、イルカ氏は「フィンランドはイノベーションのゲートウェイとして国際間のコラボレーションがしやすい環境があり、急速にマーケットが構築されるヨーロッパは、アジアにとってもホットスポット。バッテリーや水素など新しい技術開発や共同調査、商業的なパートナーシップなどさまざまなコラボレーションを歓迎したい」と呼びかける。
フィンランドでも増えつつあるEV車。急速な需要増加にどう対応していくか。燃料電池の技術革新に込められる期待は大きい。
世界の自動車メーカー各社はEV用電池の工場投資に動き始めており、さらに競争が激化していく。トヨタも今期、電池への投資を2倍の1600億円に増やすことを発表した。こうした状況下で、フィンランド発のパートナーシップ型の国家戦略はどのように作用するか。小さな資源大国が「欧州のバッテリー業界の調整役」として求められる役割は大きい。