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2021.06.09

小さな大国・フィンランドが世界初の「国家電池戦略」に舵を切った理由

今年1月「国家電池戦略」を打ち出したフィンランド。その狙いと将来図とは?


バッテリーのリサイクルをテーマにした研究で、フィンランドは「欧州のバッテリー業界の調整役」に選ばれた。その背景としてマリ教授は「金属処理の経験が非常に長く、これまで培ってきたナレッジが活かせること」と「小さな国だが、ニッケル、コバルトの埋蔵量が欧州最大規模で、鉱山をもち、電池関連の工場も多くバリューチェーンをもつこと」を挙げた。特にコバルトは世界の10%以上が精製されている。バッテリーに関連する知識を集約できる「小さなハブ」となることが期待されているという。

金属処理大国で、見直されるバリューチェーンの価値


また、フィンランドは国際的にもまだ確立されていないバッテリーのバリューチェーンにおける「トレーサビリティ」(追跡可能性)が確保できる仕組みづくりにも乗り出す。

「電池を製造する際のCO2排出量を下げるため、原材料がどこから来たか透明性を担保し、どれだけ環境に優しいかという視点も取り入れていきたい。各生産拠点がそれらを把握できれば、原材料のフェアトレードができます」とマリ教授は語る。このほか、例えばコバルトの生産工場において、児童労働の有無を特定することもできる。食料品の分野ではトレーサビリティの仕組みはあっても、金属分野にはまだなく、世界的な課題と言える。

アアルト大学マリ・ルンドストラム教授
アアルト大学 マリ・ルンドストラム教授

マリ教授が率いる「BATCircle」では、バッテリーのリサイクルプロセスの構築が進められているが、長期的な視点で経済だけでなく環境にどのような影響を与えるのか、電池の原料となる金属のライフサイクルの指標づくりをしている。

金属処理については100年来の経験をもつフィンランドだが、さまざまな分野で電動化が進むなかで「いかに金属が重要な役割を果たしているか見直されている」とマリ教授は語る。

金属の発掘から精錬技術、環境配慮型の生産方法、リサイクルなど、長年それぞれの国内拠点で培われてきた技術やナレッジについて、バリューチェーン全体を見直すことで、その価値をより高めることができる。

マリ教授は「サステナブルな社会を実現するためCO2排出量を下げ、温暖化に早急に対処しなければなりません。各地で風力発電、太陽光発電、水素発電などの動きも見られますが、クリーンエネルギーは実はすべて金属集約型の仕組み。金属は電池だけでなく再生可能エネルギーなど他の分野でも意義深く、社会がそのニーズを認めたと考えています」と指摘する。そしてこう続けた。

「残念なことに、電動化が進むなか、従来のやり方ではバッテリーの原材料は10年、20年もたない可能性があります。CO2を抑える野心的で革新的なリサイクルに挑戦していきます」
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文=督あかり 写真=Business Finland

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