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シネマの女は最後に微笑む


初出場のレースで、女性騎手の控室としてミシェルに準備されたのは、売店の裏の狭い倉庫。最初のうちはぱっとしない成績だったものの、努力を重ねてやっとあるレースで優勝を果たした矢先、ブリジットが落馬により急逝。女性プロ騎手の草分けであり自分の目標でもあった姉を失い、ミシェルに最初の躓きが訪れる。

なかなかレースに出させてもらえず焦るミシェルを牽制するパディ。このあたりから、これ以上娘を失う恐怖を味わいたくない父と、しゃにむに階段を駆け上がって行きたいミシェルとの間に、小さな隙間が生まれ始める。

「忍耐」ばかり言う父に反発して家を出て、調教士見習いとして働きたいと願い出たコンフィールド競馬場。だが男ばかりのこの世界で女性はまったく相手にされないか、そうでなければ性的存在としか見做されない。

皆に無視されてロビーの外に1人で立ち尽くしているシーンを始め、ミシェルがここで味わったあからさまなセクハラを含む性差別は、さまざまな業界で女性が受けてきたそれと酷似している。

貴族のスポーツとも言われる競馬において、騎手はほぼ100%男性であり、女性ジョッキーは極めて珍しい存在だ。男の世界にわざわざ入ってこようとする女を見る視線は、決して歓迎的ではない。

しかし、それらに対して顔を僅かに歪めつつも決して怯まないミシェルの大きな瞳には、いつか絶対にメルボルンカップに出場するという執念が燃えている。その目標にだけ己の全集中力を向けていこうとする彼女のひたむきさ、ストイックさは、まるでピンと張られた鋼の線のようだ。

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(C)2019 100 to 1 Films Pty Ltd

室内練習用の大きな馬のぬいぐるみに跨って馬の首をユッサユッサさせている、傍目にはちょっと笑えるようなシーンでも、本人は当然ながら至って真剣。

ミシェルを襲った試練と手にしたもの


密かに心配するパディが世話人としてよこした彼の友人で理解者のジョーンのフォローで、やっと各地のレースの出場権を掴んでいき、メルボルンへの足掛かりとなるG1レースで優勝を果たす。

何度か出てくるレースのシーンは、観客目線だけではなく、騎手目線、あるいは馬の目線かと思うような、非常に緊迫したリアリティに溢れるショットが多い。

体が触れ合いそうなほど接近し怒涛のように疾走する馬たち、「どけ!」「邪魔だ!」と罵倒し合う騎手たち、蹄に蹴られて細かく舞い上がる緑の芝。まるで観客も、その中の一頭に跨ってレースに参加しているかのような錯覚を覚える、迫力と臨場感だ。

文=大野 左紀子

映画
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